設計コンセプトConcept
病院
リハビリテーション 患者の自立段階に沿ってADL 向上を支援する建築的手法
島の病院おおたに
島の病院おおたには、医療療養・回復期リハビリテーション・地域包括ケアの病棟機能を持つ病院である。患者のADL(日常生活動作)向上の支援を主眼として、各病棟の患者層に適した建築的手法が採られている。
各種病棟の患者層に適した建築的アプローチ
各病棟共通の特徴として、個室中心(一部2床室)の病室構成であり、病棟フロアの中央には大きなリハビリテーションスペースが設けられている。加えて、各病棟機能に応じて、病棟内にリハビリ機能が分散配置されており、病棟内リハビリテーションの積極的な実施を意図した計画となっている。
病棟の属性
リハビリテーション室の分散配置
既存病院では、外来患者と入院患者が1か所の訓練室に集まってリハビリを実施していたが、新病院では方針を転換。通院患者は1階外来リハビリ室、入院患者は各病棟階のリハビリ室で行うものとした。平面計画においては、病棟フロア中央のリハビリスペースを中心にリハビリ諸室が分散配置されている。
これは、近年高まっている病棟内リハビリテーションの考え方で、訓練の場と生活の場のギャップを取り除き、社会復帰後に必要なQOLの向上に寄与する環境づくりを狙いとするものである。このように、病棟内に分散させた大小のリハビリスペースや廊下をリハビリに活用することで、生活と訓練の境界を取り除き、生活=リハビリという生活的視点でリハビリを捉えられる工夫が施されている。
また、5階には海の見える屋上庭園が設けられている。入院患者専用の花壇では園芸療法が実施される。歩行訓練場には島の住宅によく見られる飛び石、玉砂利、芝生等が設置されており、在宅復帰に向けて自宅に近い環境での訓練が可能となっている。
日常の生活行動がリハビリになる ー トイレ ー
日常の行動の一つである排泄行為をリハビリの機会と捉え、各病棟患者の状態に合わせて、各種トイレが病棟内に設置されている。
病棟内にはまずフロア中央部に男女の集合トイレを設置。最も状態のよい方、限りなく在宅復帰に近い方はこちらのトイレを利用する。
車椅子トイレは、病棟内に分散配置されている。手摺、背もたれが十分に設置されており、病室から4~5m程度移動可能な方はこのトイレを積極的に利用する。
病室内トイレは、病棟内の個室の約40%に個室トイレが設置されており、ベッドから2m程度移動可能な方はこの個室トイレを利用する。
ポータブル水洗トイレは、個室トイレがついていない全ての病室に専用の給排水配管を設置し、利用できるようになっている。ベッドから体を起こし、トイレまで1~2歩移動可能な方はポータブル水洗トイレを利用する。また夜間は共用部のトイレを利用するのが不安という方も、夜間のみ使用するトイレとしての利用も想定されている。トイレはベッドサイドに近いほど転倒リスクが軽減し、身体が不安定な時期であっても患者が自ら移動してトイレを使用しようという気持ちが生まれ、早期離床に繋がる。
このポータブル水洗トイレは従来のポータブルトイレと比べ、発生する臭気を抑えることが出来るため、病棟の環境を改善する効果も期待できる。また結果的にスタッフの負担軽減にもつながる。
このように、どのような状態の方でも極力自分の力でトイレに行くことで、その行動が日常的なリハビリとなり、機能改善に繋がるとの考えのもと、各種のトイレの配置計画がなされている。
日常の生活行動がリハビリになる ー移動ー
4階の食堂とオープンテラスは外来患者・入院患者・患者家族の利用を見込み設置され、前面に海が見渡せる快適な空間となっている。病棟の屋内階段は認知症の入院患者の方もおられるためカードキーによって制御されているが、病棟中央部に4階の食堂に上がるためのリハビリ専用の階段が設置されており、自由に行き来が出来るようになっている。このリハビリ専用階段は、魅力的な場所を設け、患者の自発的な移動を促し、その行動が結果的にリハビリにつながるという考えのもと設置された仕掛けの一つである。
また、日常の行動もリハビリの一部であり、目的地への移動も重要なリハビリの機会との考えのもと、病棟廊下を回廊型にし、歩行訓練の場として活用しやすい形状としている。訓練に疲れた時にはひと休み出来るよう、吹抜け部分にベンチが設置されている。このベンチや吹抜けに面した病棟内の食堂は、入院患者同士が集う場にもなり歩行の目的地となる。
他に、既存病院において病棟廊下に散在していたストレッチャーや車椅子、ポータブルトイレ等の備品に対しては、廊下壁面に収納を充実させ、歩行空間が妨げられないような設えとした。
このように、移動だけでなく滞在する場所としての活用も想定され、廊下環境の全体的な質的改善が図られている。