作品紹介Works

高齢者

特養 豊の郷 増改築工事

鳥瞰写真

施設外観:手前平屋建て部分が既存建物、奥の2階建て部分が増築建物

はじめに

この計画のメインは既存の特別養護老人ホーム(以下特養)等施設の増床です。 計画地は福知山市ですが、この地域では平成26年6月時点で特養入所待機者が374人を数え、 待機者の解消が市や地域住民からも強く望まれている状況がありました。これを受けて本計画が構想されています。 敷地は山々の豊かな自然に囲まれ、四方に開けた土地であり、既存の建物は当社の設計で平成19年に竣工した建物です。 既存の建物にはユニット型の特養50床、ショートステイ(以下ショート)10床があり、それにデイサービス(以下デイ)が併設されています。 広大な敷地を活かしてこれらをのびのびと構成し、さらに勾配屋根とすることで周囲の風景にも溶け込んだ大らかな建物としています。 これを今回増築することで、特養30床・ショート10床の合計40床を増床します。

ユニットの計画 見守りやすい共同生活室

特養とショートの各ユニットは入居者の個室が共同生活室を囲むような形で構成しています。 共同生活室は入居者が食事や余暇を過ごす場所ですが、どのようなあり方がよいかが常に議論されています。 職員から見えづらい死角となるスペースを意図的につくることで、入居者がリラックスできる空間を確保しようとする施設も実際にあります。 見られる安心もあれば、見られない安心もあるだろうということです。 しかし、ここではユニットケアでも標準的なプランとし死角の少ない構成としました。 職員の方へのヒアリング調査や夜間の見守り調査を踏まえた上で、この形式の採用に至ったのですが、 最大の理由は認知症を患う入居者への対応を重視したからです。 施設には比較的、初期段階の認知症の方が多く入居されます。個人差はありますが、この段階は最も見守り介助を必要とし目が離せない時期にあたります。 食事の場面でも、他の入居者の食事が気になってしまう方や、食事を途中で止めて立ち上ってしまう方、色々な方がおられます。 入居者の居場所をあえて1か所に集約することで、職員が容易に見守りをできるようにしながら、 ダイニングテーブルなどのレイアウトの自由度を高め個々の状況に応じたスペースをつくれるように計画しています。 もうひとつの理由は既存のユニット構成と変わらない構成であることです。 ユニットによって入居者は過ごし方が大きく変わらず、また職員もケアの流れを変えないでスムーズに対応できるメリットがあります。

2階平面図(※1階も2ユニットの考え方は共通)

迅速に対応できるケア動線

既存建物では特養・ショート部門で、今ではすっかり定着したユニット型を採用していますが、当社からの提案として「2ユニット1グループ」の構成をとっています。 この提案は2つのユニットをスタッフルームで繋げ、特に夜間において少ない職員でも見守りがしやすいように考慮したものです。 今度の増築計画においても、この形式を採用しましたが、施設様の意見を受けて一部改良を加えています。 それは2ユニットをループ状に接続したことです。 以前は接続した2ユニットに「端」があり、入所者の呼出しに対してケア動線が長くなる場面があったのですが、 今度の計画では端をなくし、ケア動線を短縮し入居者の呼出しに素早く応えられるようにしています。

ユニット内居室(洋室)

ユニット内居室(和室)

居室

居室はすべて個室です。洋室が中心ですが、各ユニットに和室を1室用意しています。 畳を採用するときに心配されるのが汚れのことですが、ここではエンボス加工されたビニル製のシートを採用していますので、 掃除がしやすくメンテナンス性を考慮しています。 またすべての居室に専用のトイレが付属しています。建具は大きく開け放てる構造(大建ひきドア)のものを採用していますので窮屈にならず、 車いすの方でも楽にアプローチでき、また職員にとってもケアしやすいように配慮しています。

個別浴室

機械浴室

浴室

各ユニットに浴室が割り当てられていますが、うち3か所は個別浴室で1か所が機械浴室としています。 高齢の入居者が住み続けることを考えると、老いによってADLが変わることに対応が必要です。 個浴には酒井医療のホーミィイースを採用しています。 普段は収納されていますが、浴槽にはリフトが内蔵されており、付属のシャワーキャリーに移乗すれば、 車いすが必要な方等でもスムーズに入浴できるものです。もちろん身体的に自立された方はそのまま入浴することができます。 機械浴室には同じ酒井医療のカトレアを採用しています。 もう少しADLの低下が進んでしまい、浴槽内で自分の身体を支えることが困難な方の利用を想定しています。 専用の車いすに移乗した状態で入浴できるタイプのものになります。 全介助の状態、いわゆる寝たきりの方は割合的にも少ないことから、既存建物にある寝台浴を利用します。

建築主
社会福祉法人 希望の丘福祉会
所在地
京都府福知山市
用途
特別養護老人ホーム 既存50床+増築30床=合計80床 、ショートステイ 既存10床+増築10床=合計20床、デイサービス
構造
鉄骨造
階数
2階建
敷地面積
12433.24㎡
延床面積
5240.50㎡(既存:3436.23㎡、増築:1804.27㎡)
竣工年月
平成28年6月
担当者
岩﨑直子 , 山本晋輔