作品紹介Works

高齢者

社会福祉法人 清和園 鳥羽ホーム 新築工事

 

(1)計画について
 
本計画敷地は、京都駅から南西に約2.2㎞の場所に位置し、主要幹道路から一本西側に入った市街地にあります。
「社会福祉法人 清和園」は1953年、浄土宗円覚寺を母体に設立され、約半世紀を経て、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、特別養護老人ホーム、児童館など多数の福祉事業を展開する法人です。
 本計画は、老朽化した軽費老人ホーム(A型)の建て替え計画です。京都市では軽費老人ホームの新規整備の予定が無く、老朽化した施設の建て替えのための建設補助はないため、建替えを行う場合は老人福祉法の施設基準にしたがって計画する必要がありました。併設施設として、ユニット型地域密着型特別養護老人ホーム(以下、特養)と通所介護(デイサービス)と認知症対応型通所介護と訪問介護を併設する建物の計画となりました。

(2)軽費老人ホーム(A型)を何に建て替えるか
 
本計画は軽費老人ホームを何に建て替えるかを考えることからスタートしました。初めに計画したのはケアハウスです。ケアハウスの居室面積は1人当たり内法15.63㎡以上となり必要な居室の数を取ることが出来ませんでした。そこで次に考えたのがサ高住です。サ高住の居室面積は壁芯で18㎡以上となります。内法面積にすると約13㎡程度となり結果として必要な居室の数を取ることができました。
 サ高住を計画することによるメリットがあります。それは人員配置を抑えることが出来ると言う事です。介護業界の離職率は非常に高く人を集めることが難しくなってきています。パートを雇うことも困難な状況になっています。例えば、ケアハウスや介護付き有料老人ホームなどの特定施設は人員配置基準が3:1となり、実際に必要となる職員数は20人以上となります。一方サ高住は、日中に管理者が1人で職員数として3人いれば良いので人員不足による事業中断のリスクが少なくて済みます。
 また、京都市ではケアハウスへの建設補助金がありませんが、サ高住には約6,000千万の補助金が付きました。よってサ高住を計画することとなりました。法人としては、今までなかった在宅サービスと入所サービスの中間施設としてサ高住を計画する意味があります。在宅⇒サ高住⇒入所と法人全体として包括的なサービスの提供を目指すため計画されました。

複合施設として

(1)特養へのサ高住併設について 

 京都市には72施設の特養があります。内29施設はユニット型特養です。京都市内の各施設の待機者数は少なくとも200人以上となり1000人を超える施設も数施設あります。法人としては地域のニーズにこたえ当初広域型特養の計画を希望していましたが、市との協議より地域密着型特養の計画となりました。

簡易断面図


 サ高住に特養を併設するメリットは下記の内容となります。
・待機者数が多く特養利用のニーズが高いため安定した運営を見込むことが出来る
・特養にサ高住を併設することで、サ高住として夜間人が居なくても、特養の夜勤者が建物内に配置されることで、いざと言う緊急の事態に対応する事が出来る。

(2)訪問介護(ホームヘルプサービス)について 

 訪問介護はサ高住と併設することにメリットがあります。
・同じ建物への訪問介護については、他の建物への介護報酬に比べ1割の報酬減となるが、1日移動時間は他の建物へ行くよりも短くてすむ。パートであれば移動時間を除く実働時間に対する報酬の支払いで良いがパート職員が確保できないのが現状である。常勤スタッフによる介護が必須となると、介護報酬が下がったとしても移動時間が減らし作業の効率化を図った同一建物への訪問介護が有利となる。

プランについて

(1)特養プランについて 

 人員を確保することが難しい中、スタッフの負担を少なくし、継続的な運営を可能にするように計画しました。
・夜間のスタッフ1人でも2ユニットを見守りやすく、2ユニットのスタッフが協力できるようにスタッフ事務室を中央部分に配置した。
・共同生活室は見守りがしやすいように矩形のプランとした。
・浴室は2ユニットの間に配置し、ユニット間でスタッフが協力できるよう配慮した。
・特養の入居者は介護度が3以上で車椅子利用または寝たきりの方が多くなると考え、車椅子対応トイレを1ユニットに3ヶ所設けた。

(2)サ高住プランについて
 
開設当初は軽費老人ホームから移り住まれる方が大半となります。その後は、新しく入居者を募集していきます。移り住まわれた入居者20人の内要介護1の方が4人、要介護2の方が1人です。
 入居者は要介護2以下で基本的に車いすの利用など体の不自由な方や認知症では無い方を想定しています。以上の入居者の状況を踏まえ、サ高住のプランを計画しました。
 今回のサ高住のプランで特徴的なものは、サ高住の食堂とデイサービスの食堂兼機能訓練室を一体的に利用できることです。サ高住の入居者と地域の方々との交流が大切だというスタッフの思いから、大きな催しができる空間が取れるように計画しました。
 食堂の配置については、自立して移動できる入居者が大半であることから各階ではなく、1階に配置し、厨房からの配食が効率的に行えるようにしました。


 浴室については、週2回共用の浴室を利用していたことから、居室内には浴室を設けずに共同浴室として入居費用を抑えることとしました。また、居室内に浴室を設けた場合、将来的に介護度が上がったときには利用頻度の少ない浴室の清掃が負担となる可能性があります。これらを考慮して、デイサービスによる入浴サービスと共同浴室を利用した居宅の入浴サービスを利用する方が良いと判断しました。
 居室内のキッチンについては、居室内ではお湯を沸かしてお茶をいれたり、ラーメンを作る程度であるとの事であったため、洗面と一体型の洗面キッチンとしました。
 洗濯機については、各居室には設置せず、共用の洗濯機を設置しました。乾燥機については利用者の無駄遣いを無くすため有料としています。

4階平面図(サ高住プラン)

内観

 内観はホテルのように落ち着いた空間になるように仕上げています。サ高住部分はシックなイメージとなるように濃い木目を基調としデザインしました。1階エントランス奥にはアイストップとなる「清和」の日の春の川の流れをイメージした格子をデザインしました。2・3階は白木調を基調とした温かみのを感じるデザインとしました。

1階 エントランスホール格子

1階 サ高住食堂

2階 特養共同生活室

4階 サ高住廊下

外観

 建物の外観は3つの大きなボリュームにより構成されています。
 1つ目のサ高住食堂部分のボリュームには外部に大きく開いた窓を設け、地域とのつながりを意識しました。
 2つ目の建物から突き出された階段及びEVの縦動線のボリュームは、2階から6階にわたって袖壁を45度に傾けて設け、屋上部分では庇に変わることによりのびやかな印象となるようにデザインしました。
 3つ目の外観の大部分を占める住戸部分のボリュームは、2・3階の特養部分と4・5階のサ高住部分を2層連続のルーバーを設けることにより単調となりがちなバルコニーにリズミカルな印象を与えています。

外観(夜景) 北西面

建築主
社会福祉法人 清和園
所在地
京都府京都市南区上鳥羽堀子町
用途
ユニット型地域密着型特別養護老人ホーム、通所介護(デイサービス)、認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)、サービス付き高齢者向け住宅、訪問介護(ホームヘルプサービス)、居宅介護、厨房、地域交流スペース
構造
鉄筋コンクリート造
階数
地上6階
敷地面積
1,812.29㎡
延床面積
3,938.616㎡
竣工年月
平成29年2月末
担当者
相本正浩 , 竹之内啓孝