作品紹介Works

高齢者

特定医療法人 桃仁会 サービス付き高齢者向け住宅 やすらぎ

(1)はじめに
 
本計画敷地は、京特定医療法法人桃仁会は、京都市伏見区にある透析専門病院です。病院以外にクリニックや老人保健施設、訪問介護などさまざまな医療・介護のサービスを提供しています。本件はこの透析専門病院が病院敷地の隣地に提供するサービス付き高齢者向け住宅の新築計画です。

(2)事業主の計画の目的
 
事業主の計画の目的は下記の5つの理由となります。
 
①透析通院患者を確保するため
 ②自院のバックベッドが必要
 ③老健の在宅復帰先の確保のため
 ④訪問介護/居宅介護利用者の確保のため
 ⑤患者さんに行ったアンケートでサ高住入居希望が多かったため

(3)透析患者さんのための建築
 
透析患者さんのための建物の設計するにあたり重要なことは、どのような方が建物を使われるか考えることです。下記に建物を使われる透析患者さんの5つの特徴をまとめました。
 
①車椅子利用者になる方が多い
 
②生活水準が多様である
 
※生活保護の方、普通に仕事をしている方、裕福な方がおられる。 独居の方がいれば、夫婦の方もいる。
 
③体の弱い方が多い
 
※透析患者の多くは免疫力が低下していることが多い。それにもま して高齢者のため温度差にも敏感な方が多い
 
④緊急時対応の可能性が高い
 
※透析患者の多くは血圧の変動がはげしいため急変が起きやすい。
 
⑤食事が透析食となる。

透析患者の5つの特徴 具体的な建築の検討と工夫

(1)車椅子利用者になる方が多い
 
透析患者さんは車椅子利用者になる方が多い事を踏まえ、車椅子の移動の負担を減らすため、居室・寝室から通路を通らずに直接便所・洗面に入るようにプランを工夫しました。
 
また、洗面と便所は部屋を分けずに1つの部屋にすることで、車椅子の移動と介助がし易い大きな空間となるように工夫しました。
 「検討案」は、必要になれば赤丸の間仕切り壁を取り外し、洗面・便所と更に通路を一体的に使える案です。介助スペースをさらに大きく取ることが可能になります。
 
本計画では、自立歩行、車椅子自走が出来る方に住んで頂くため、通路を含むほどの大きな介助スペースは必要
無いと考え採用を見送りました。入居者がそのような状態になればサ高住での生活が難しいため病院または老健に移ってもらうと言う事になりました。

(2)生活水準が多様である
 
地域性により入居者の生活水準に差があります。単身の方だけでなく、夫婦の方や、比較的裕福な方もおられるので、下記の家賃が異なる5つの居室タイプを採用しました。尚、Bタイプの居室にはお風呂がありませんが、共同浴室を利用してもらうことが出来ます。

Aタイプ:お風呂が有り、居室面積約25㎡。

Bタイプ:お風呂が無し、居室面積約18㎡。

C~Eタイプ:2人部屋及び大きなシングルタイプの居室

(3)体の弱い方が多い
 
透析患者さんは免疫力が低い方が多く、高齢のため温度差に敏感な方が多いので換気ルートについて工夫しました。
 
一般的なサ高住では、壁に外気を直接取り入れる給気口を設け、その空気を換気扇で外に出し室内の空気を衛生的に保つシステムになっています。このシステムは安価ではありますが、冬場の冷たい外気を居室の中に直接入れることとなります。
 
今回採用したシステムは、冬場の冷たい外気を居室に直接取り込まないシステムです。冬場であれば外気は一度エアコンで温められた廊下に取り込まれます。そこで暖められた空気を廊下から居室に取り込み、その空気を換気扇で外に出すシステムとなります。実は、この採用したシステムは、病院や福祉施設では良く採用されるシステムです。入院患者さんや入居者に、出来るだけ冷たい外気が直接当たらないように工夫したシステムです。病院では更に高額となりますが、全熱交換機を導入したり外調機を導入する場合があります。

一般的なサ高住の換気ルート

採用したサ高住の換気ルート

(4)緊急時対応の可能性が高い
 
透析患者さんの多くは血圧の変動がはげしいため体調が急変しやすく、一般的なサ高住以上に緊急呼出し装置が重要となります。下記にそのポイント2つ上げます。
 ①
PHSへの連動:施設内どこでも受信が出来かつ通話が出来る
 ②
施設外での緊急呼出し受信:施設外への電話転送が出来るかと言う事になります。

 次に、上記の内容を踏まえ、具体的に採用した機能を下記にまとめます。
 ①
緊急呼出し受信:スタッフが緊急呼出しを施設内どこでも受信できるようにする。
 ②
外部緊急呼出し受信:・スタッフが夜間等施設内にいない場合でも、緊急呼出しを施設外で受信できるようにする。
 ③
移動緊急呼出し:利用者が緊急呼出しを施設内どこでも発信できるようにする。
 ④
住戸通話受信:緊急性が無い緊急呼出しに対し通話のみで対応しスタッフの労力の低減をはかる。
  
スタッフが利用者の住戸からの通話を施設内どこでも受信できるようにする。
 ⑤
業者インターホン受信:業者のインターホンを施設内どこでも受信できるようにする

採用した緊急呼出し装置のシステム

(5)食事が透析食となる
 
まず、 透析食を作る厨房と一般的な厨房は建築的には特に変わりません。厨房機器としては、キザミ食などを作る機器の種類が多くなりどちらかと言うと病院厨房と類似します。
 
次に、食堂は1階の厨房と隣接して1か所にまとめました。
 
食堂を配膳の効率を考え厨房に隣接して1ヶ所にまとめるか、入居者の食堂までの移動の負担を考え各階に分散して配置するかは、入居者の介護度及びどの程度自立移動できるかと大きく関わってきます。
 
本件では、入居者の介護度が2程度であり自立歩行、車椅子自走が可能と考え、食堂は1か所にまとめて1階に設けることとしました。食堂の大きさについては、車椅子利用者が多いことからゆとりのある大きな食堂にすることになりました。

1階平面図

内観

 温かみのある落ち着いた空間になるように仕上げています。エントランス、食堂、廊下等の場所は濃い木目を基調とし、居室内は薄い木目を基調としデザインしました。

1階 エントランスホール

1階 食堂

2階 廊下

2階 共同談話スペース

外観

 建物外観は西隣りにある桃仁会病院と揃えるようにデザインしました。

外観 北面

外観 北面(夜景)

建築主
特定医療法人 桃仁会
所在地
京都府京都市伏見区桃山町
用途
サービス付き高齢者向け住宅
構造
鉄骨造
階数
地上4階+塔屋
敷地面積
737.97㎡
延床面積
1,630.77㎡
竣工年月
平成26年6月
担当者
竹之内啓孝