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障害者

社会福祉法人 椿福祉会 通所施設 新築工事

外観写真(南西から建物を見る)

 

計画概要

 椿福祉会は1993年3月に設立された法人で、知的障がい者の方へ総合的な支援を行っています。現在は大阪市の鶴見区内で障がい者入所支援や生活介護、就労継続支援B型、グルプホームなど6つの事業所を運営しています。
 本計画は既存の通所施設の建て替え計画です。30年前に建てられた既存の通所施設は、当時の支援学校の卒業生が利用するために建てられた施設です。建物の老朽化が進み、EVが無く、トイレに段差があり、かなり手狭になってしまい、ご利用者が適切な環境で作業することが困難な状況となったため、建て替え計画を進めることになりました。
 新しく建替えられた施設は、次のような施設になります。
 1階に事務室と厨房とカフェがあります。カフェは南側の道路を行き交う人からよく見える位置に計画されています。事務室は玄関に隣接して、帰ってきた送迎車や施設に来られたご利用者や来客者が窓から見えるように配置しました。厨房では、ご利用者30名の昼食とカフェで出す軽食を調理します。
 2階に生活介護5名の作業室と15名の作業室を設けています。普段は一体的に使っていますが、2つの部屋の間に建具を設けており、必要に応じて2つの部屋に分けて利用することができます。
 3階に就労継続支援B型10名の作業室と30名が食事することができる食堂が設けています。2つの部屋の間に建具を設けており、必要に応じて建具を開放することで大きな部屋として利用することができます。
 2階と3階でご利用者の特性が異なるため、それぞれの特性に合わせて各部屋の設計を行っています。

ご利用者の状況

 2階のご利用者の状況は右表の通りで、特性は下記の通りです。
・意思の疎通ができるご利用者が多い。
・障がい支援区分と比べ比較的軽度な方が多い。
・こだわりを持っているご利用者が多いが、激しいものではない。物の置き方にこだわる人、窓を閉めたり開けたがる人、献立など貼り紙を剥がしたい人(注意を促せば一時的に止める)、人が苦手で個別作業台で作業している人(今は別の部屋で作業し接点を少なくしている)などがおられる。
 3階のご利用者の状況は右表の通りで、特性は下記の通りです。
・2階のご利用者と比べ比較的軽度の方が多く、複雑な作業も出来る。

階毎のご利用者の状況

外観へのこだわり

 椿福祉会の理事長から最初に受けた要望が、外観へのこだわりです。障がい者施設は隠すものではない。施設は表から見える開かれたものであり、地域と共にあるべきである。かつ、建物は福祉施設らしくない施設でありたいと言う希望を受けました。
 障がい者の通所施設は、株式会社でも運営できるようになり施設の数が増え、施設がご利用者を選ぶ時代から、施設はご利用者やご家族から選ばれる時代になりました。法人としては、今まで培ってきたご利用者に対する支援方法の積み重ねがあるのですが、新しく参入してきたNPOや株式会社が運営する施設は、建物が新しく今までのような福祉的なイメージで無い建物が多く、ご家族はそこに目が行きがちです。このような状況を踏まえ法人として、「新しい」「カッコいい」「ワクワクする」など他施設との差別化が必要であり、人伝い、口コミ、SNSなどによる情報の広ろがりが重要視される中、選ばれる施設として建物の外観の果たす役割が改めて重要であると見直し、外観にこだわることになりました。
 外観としては、ベージュなどの施設的な色は使わず、黒と木目調の仕上げを基調とし、建物全体がシックでありながら現代的で存在感のあるデザインにしました。
 建物に向かて1階右側の突き出たカフェ部分は、その壁を平面的に斜めにすることで、カフェ部分が人を迎え入れるような印象を与えると同時に、建物全体の中でカフェ部分がアクセントとなり周囲から視線が集まるように計画してます。
 本計画の外観の一番のこがわりは、庇とそれに連続する袖壁です。当初は、建築コストが高騰するなかコストを抑えてデザインを検討していましたが、特徴的な庇とそれに連続する袖壁がこの施設のデザインの要になると判断され、数百万のコストをかけて採用することになりました。

外観写真(南東から建物を見る)

外観写真(夜間)

地域に開かれたカフェ

地域に開かれたカフェ

 就労継続支援B型で利用予定のカフェでは、カフェの外の畑を見ながらコーヒーを飲んだり軽食が食べられるように計画されています。その畑で取った野菜などを利用し、同法人で作っている食パンなどをサンドイッチなどに加工して販売する予定です。
 カフェは比較的軽度の方が働くため障がい特性を想定した建築的対応は行っていません。

ご利用者の特性に合わせて作られた作業室

 2階の生活介護では、スタッフ4,5名で支援、見守りを行いながら、ご利用者が室内作業を行います。
 奥に畳の静養スペースを設けており、そこで休憩できるようにしています。
 作業服や汗をかいた服を着替えるため、休憩スペースの横にカーテンで仕切ることができる更衣スペースを設けています。
 ご利用者の中に個別の作業スペースが必要な方がおられるためパーティション作業台を設けています。
 作業室の中央に間仕切りとなる建具が設けられており、必要に合わせて作業室を2つに分けることが出来るようになっています。
 3階は、就労継続支援B型10名の作業所です。5名は施設外に働きに行くか、同じ建物内にある厨房かカフェで働きます。残る5名は3階の作業室で軽作業を行います。
 コンセントやエアコン等のスイッチについては、こだわりを持つご利用者がおられるため、2階と3階の作業室共通で家具の中に隠せるように工夫しています。

2階の生活介護5名と15名のための作業室

コンセントやスイッチ類は家具の中に隠せるように工夫

バイキング形式の配膳ができるカウンターを設けた食堂

見晴らしの良い環境で食事ができる食堂

 食堂は見晴らしの良い環境で食事ができるように3階に設けました。
 写真奥の建具が食堂と作業室の間に設けられた建具です。建具を開くと一体的な大きな部屋として利用することが出来ます。
 配食の方法は、下膳、配膳共出来るだけご利用者が行えることはご利用者に行ってもらいます。バイキング形式で配膳できるようになっているため、可能な方はご利用者自身で食事を取って配膳します。下膳も可能な方はご利用者自身が専用のカートに食べ終わった食器やお盆などを戻します。

ご利用者の特性に合わせた2種類のトイレ


 2階の生活介護のご利用者の中に、水をまいたり、粗相をされる方がおられるため、耐水対策に配慮した部屋全体を水洗いできるトイレにしました。特に小便器の廻りで粗相が多いため小便器の下に水を流せる溝を設けて常にトイレ内を清潔に保てるように工夫しています。
 ウォシュレットは、イタズラするご利用者がいないため設置しています。水洗いトイレにウォシュレットを設置する場合、コンセント部分に水がかかってショートする危険があるため、ホテルなどで採用されるユニットバス用のトイレを採用し、ウォシュレットのコンセント部分を天井裏まで延長することで水がかからないように工夫しています。
 現状、ご利用者の中に車いすを利用される方はおられないのですが、今後の高齢化を見据えて車いすトイレを設置しています。
 3階の就労継続支援B型のご利用者は軽度の方が多く、利用されるトイレは水洗いトイレではなく、掃除がし易い一般的な乾式のトイレにしています。

小便器廻りで粗相をしてもすぐに水で洗い流せる溝を設けた2階男子トイレ

コンセント部分への水がかかりに配慮しユニットバス用のトイレを採用

失便処理装置を設置したシャワー室

シャワーで床に落とした失便をそのまま処理できるように床に和便器を埋め込んだ失便処理装置

失便処理装置を設置したシャワー室

 ご利用者の中に失禁や失便する方がおられるため、失便処理装置を設置したシャワー室を設けています。失便処理装置は、グレーチングの下に金隠しをカットした和便器を埋め込んだ装置です。床にシャワーで落とした体についていた失便を、そのまま和便器に落とし和便器のフラッシュバルブで失便を排水処理できるようにしました。
 シャワー室の中に洗濯機は設けておらず、失便で汚れた衣服は、汚物流しで下洗し家に持って帰って洗濯してもらいます。

建築主
社会福祉法人 椿福祉会
所在地
大阪市 鶴見区
用途
生活介護、就労継続支援B型、カフェ
構造
鉄骨造
階数
地上3階
敷地面積
482.03㎡
建築面積
223.20㎡
延床面積
600.16㎡
竣工年月
令和6年2月
担当者
竹之内啓孝 , 清水大輔