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障害者

社会福祉法人花ノ木 グループホーム

鳥瞰

重度心身障害の方のグループホーム

京都府亀岡市に建設予定の重度心身障害の方のグループホームの計画です。移動や食事、入浴、排せつ、寝返りなどを自分一人ですることが困難で全介助が必要な方が入居されることを想定しています。現在在宅で暮らしている方の親御さんの高齢化に伴って自宅介護がだんだんと難しくなっており、その受け皿も兼ねた10人のグループホームです。

「入居者にも、職員にも、ストレス少なく過ごせる日々に」

今回のグループホーム計画では、設計者として、長く住む上で心地よい環境・支援のしやすい環境が必要と考え、入居者も職員もストレスの少ない環境とすることをコンセプトに打合せを進めました。

平面図

入居者に心地よい環境を

敷地に隣接する花ノ木医療福祉センターを見学した際に印象的だったのは、静かな環境です。 時間の流れも、入居者の方はゆっくりとしていて、リフトを使うときも、自力でのトイレの移乗も、ゆっくりした動きとなります。
そのため、今回のグループホームでも静かな落ち着いた環境を整備したいと考えました。
また、在宅で過ごしてきた方が移り住むため、なるべく住宅のような雰囲気に近づけることも考慮しています。
職員の方との話の中で、「お風呂は家庭で毎日入っている方もいるので、グループホームでは週3回入浴でも、通所事業所での入浴を合わせて毎日入浴可能という環境にできる」「シーツも週一回はグループホームで洗濯したい」「なるべく住宅にある設備としたい」との言葉もあり、施設型の設計に携わる場合とは違う視点が必要と感じ、使い勝手と住宅の雰囲気との落としどころを考えて打合せを進めました。

ー暑さ・寒さと眩しさへの対応-
明確な意思表示が難しく、自分で移動できない入居者には、建築的には暑さ・寒さと眩しさへの対応がまず必要と考えました。
暑さ・寒さについては、当初は輻射空調の採用も検討しましたが、イニシャルコストがかなり高い点や個別対応・設置場所を考慮して、通常のルームエアコンを採用することになりました。その上で、入居者エリアにはロスナイを設置することで外気が直接入らないよう配慮しています。
また、このグループホームでは見守りのため居室の扉を開けたままでの生活を想定しているため、居室・廊下・食堂・サブリビングが同等の温熱環境となるよう空調計画を行いました。
眩しさについては、リクライニング車椅子の方が斜め上を向いた状態での生活となるため、光源を見てもなるべく眩しく感じないように、パネル付もしくはグレアレスタイプの照明を採用しています。

ー外部環境とのつながりー
サブリビングは、居室・食堂以外の居場所として計画し、車椅子から東側の空や景色が見えやすい高さの窓としています。また、食堂からつながるテラスでは、外の風にあたることができます。屋根のあるテラスとすることで、上を向いた時のまぶしさ対策と西日対策としています。

ー外観・内観ー
グループホームの静かで穏やかな環境を建築的に表現できないかと考え、外観は重心が低くなるようにシンプルに屋根をかけ、全体的に落ち着いた色合いにしています。 内部は、居室・サブリビングの天井高さに比べ、食堂の天井を高く、廊下の天井を低くすることで、エリアの濃淡がつくように計画しています。

サブリビング

外観(居室・テラス)

サブリビングから廊下・居室を見る

職員にとって使い勝手の良い建物に

職員は食事時や入浴時は特に忙しいため、少しでもスムーズに介助できる環境が必要です。 既存施設では建物全体に天井走行リフトが採用されており、車への移乗などに床走行リフトも使用しているため、職員の方もリフトの使用に慣れています。今回のグループホームでは、機械浴室・脱衣室に天井走行リフトを1台設置し、それ以外は床走行リフトを使用する前提です。リフト・車椅子での移動がストレスなくできるよう、廊下幅、居室の面積、各室の扉幅を大きくとった計画にしています。

他と比べて廊下幅が少し狭くなっている廊下では、リクライニング車椅子・床走行リフトの使用に支障が無いかについて、実際に検証して確認しました。床走行リフトは意外と小回りが利きますが、方向転換の際にはかなり力が必要ため、床材は車輪の走行性を重視してクッション性の無いものを選定しています。
居室内のベッドと車椅子の間を移乗する際、床走行リフトが居室・廊下をまたがって移動します。一日に何度も移動することを考慮し、居室の建具は床レール無しの仕様としました。

ベッドの置き方ごとの床走行リフトの軌跡

居室

居室 平面・断面

ー居室と見守りー
必ず必要な見守りについては、居室の扉幅を大きく(幅2000㎜)し、基本的に扉を開けたままで過ごすことで、見守りができるようにしています。
見守り用の幅の広い建具はゆう設計の他物件(新みわ翠光園今川学園グループホーム)でも採用していますが、今回は車椅子利用がメインで扉の開け閉めも職員の方が行うということで、床レール無しの仕様とした上で、扉の振れ止めとしてマグネットガイドピンを数か所設置することにしました。
見守りに関しては、センサー感知式の見守り機器についても各居室に設置を予定しています。
居室内はリクライニング車椅子と床走行リフトを使用する前提のため、なるべく床を広く使えるように、収納を扉上部に設けた天袋とすることで床面積を減らさずに私物の収納場所を確保しました。

ー食堂・キッチンー
食事はマンツーマンの介助が必要なため、最大3人の食事ができる食堂としています。また、食べるペースも人により異なるため、食事の用意は一人ずつフードコートのようにオーダーを受けてから準備する想定です。
グループホームのキッチンでは、配膳のスペースやお盆置き場を想定しておく必要がありますが、今回は同時に配膳する人数が少ないため、キッチンカウンターを大きめにすることで配膳スペースを確保しています。

食堂 左手に配膳用の大きなカウンターがある

ートイレー
ほとんどの方がおむつを使用するなかで座位をとれる方もいます。そのため、大きい多目的トイレを1か所計画しました。このトイレは水まわり車いす(シャワーチェア)を利用して便器にアプローチすることを想定しています。衛生的面から、床走行リフトの車輪をトイレ内に入れずに便器に移乗できないかとの考えから、廊下に床走行リフトを置き、トイレ内の水まわり車いすに移乗する方法をとることになりました。
通常は職員の方の利き手がどちらでも対応できるように便器の両側に介助スペースを設けますが、水まわり車いすの場合は、排泄後そのまま便器から前に移動して拭き上げができるので、便器を壁際に寄せて設置しています。
トイレ内にはセラピーマット用のスペースもあり、居室内でのおむつ替えができない場合に使用します。

ー機械浴室・脱衣室ー
機械浴室・脱衣室は、天井走行リフトの使用を前提として、脱衣台・機械浴槽の配置を決めているため、省スペースな浴室となっています。特殊浴槽は、既存施設にならい、シャワータイプの仰臥位浴のPAO(酒井医療)を採用しました。
既存施設の浴室の考え方を元に、支援のしやすさを重視しつつ、入浴は一人ずつの交代制とすることで家庭に近づけた使い方を想定しています。

入浴手順は、
① 天井走行リフトで車椅子から脱衣台に移乗し
②脱衣台から天井走行リフトでPAOのストレッチャーに移乗
③洗体、洗い流し後にPAOで入浴
④PAO入浴中に洗髪
⑤天井走行リフトで脱衣台に移乗し、拭き取り
⑥脱衣台から車椅子に天井走行リフトで移乗。
という想定です。

平面プランと車寄せ

中央にキッチン・事務スペース・食堂があり、両側に居室が並ぶ平面プランは、居室を全て同じ方角に配置することで、条件をなるべく揃えることを意図しています。
外観で特徴的なのは、玄関前の大きな車寄せ庇です。 平日は毎日朝夕に通所事業所への送迎車が止まるため、車の動線を考慮し片持ち梁の庇としています。また、雨の日の乗降の際に車の後方で数人が待てるように大きな庇としています。
玄関は、基礎形状とレベル設定により、スロープを設けずにアプローチできるつくりとしました。

外観(車寄せ)

建設コストを抑えるために

昨今の建設コストの高騰は、入居者のホテルコストに影響します。
今回は入居者が使用する空間は広くとっていますが、スタッフスペースについては可能な限り小さくしています。洗濯室や汚物処理室を単独で設けず、事務スペースやスタッフルームについてはレイアウト・使い勝手を検討した上で床面積を抑える計画としました。
また、外壁の仕様や設備計画等の検討を行い、なるべくコストを下げる計画としています。

入居後にかかる光熱費についても、ロスナイや太陽光発電を採用することで光熱費を抑える計画としています。

医療的ケアへの将来対応

入居者で医療的ケアが必要な方は開設当初はほとんどいない想定ですが、将来的に経管栄養の方が増えることを見越し、洗浄・保管スペースを設けています。

避難ルート

玄関の他にテラス・サブリビングからも外部に避難ルートを確保した計画です。
既存の施設での避難訓練の際は、入居者が乗った布団を引きずって移動しているため、同じような避難を想定しています。居室は腰窓とした代わりに、スプリンクラーヘッドを廊下にも任意設置しています。

建築主
社会福祉法人 花ノ木
所在地
京都府亀岡市
用途
共同生活援助事業所(10名+ショートステイ1名)
構造
木造
階数
1階
敷地面積
959.15㎡
建築面積
381.54㎡
延床面積
359.70㎡
竣工年月
2025年5月(予定)
担当者
丸川景子 , 河井美希