Design StudyDesing Study

障害者

自立度の高い方の障害者施設  建築からできること

現在計画を進めている障害者施設の一つに、「比較的自立度の高い方たちのグループホーム」があります。障害者の特性や障害程度を表す言葉はありますが、建築設計を行うときにその分類が建築内容の分類になるとは限りません。
この「自立度が高い、低い」という言葉も使われますが、建築設計を行う場合、どのようにこの言葉を解釈すればよいか戸惑います。

計画グループホームの利用者

今回の計画は、既存のグループホームの移転です。そのため入居者の状況はわかっています。入居者は5人ですが、既存の建物は5人が1階と2階に分かれてすまないといけない大きさで、2人と3人に分かれています。
5人の障害特性状況はそれぞれ異なっていますが、グループホームを運営する法人では皆が身体を動かし、汗を流して働くことを大切にしています。簡単な作業しかできない人も、集中力が必要な作業を行う人もいて、それぞれの状況に応じた毎日の作業を行っています。
食事や片付けなども自分でできる人もいます。一番自立度が高い方は、外出の日は一人で電車に乗って映画館へ映画を見に行くこともあります。
ただ、お一人は他の方とうまくいかないことがあり、2人と3人はこの人間関係がうまくいくような組み合わせになっています。

この5人の方が新築するグループホームに暮らしてもらうのですが、どのような計画にするか。敷地に余裕があるので既存グループホームのように2階建てにするかしないかはどちらも可能です。これまでと同じように、2人と3人に分けた住まいとするか、5人をグループ分けせず毎日が気持ちよく暮らすことができる建築計画はあるか。
5人の「比較的自立度が高い方たち」の住まいとして、この人間関係をどの程度建築で対応するのかを考えなければいけません。

人間関係を考慮した障害者のすまい

ゆう設計でこれまで計画した障害者施設のうち、グループ分けの考え方の異なるものを例示します。障害の程度にかかわらず人間関係をスムーズにするという視点で検討されています。

1:菜の花ホーム 居室、食堂を含むグループ分け

菜の花ホームをゆう設計ホームページで紹介しています。
菜の花ホーム

プラン

この計画では 4人、5人、ショート2名に分けていますが、その理由です。

「このホームでは9名+短期入所2名の方が生活します。ホームの定員9名のところを4人と5人の2つの生活ゾーンに分けた構成としています。グループホームは共同生活ですが4,5名という家族的な単位に分けているのは理由があります。ホームに入居して新しい人間関係を築かなければならない、しかも他に居住の選択の余地が限られた方々にとって誰と生活空間を共にするかというのはとても重要なことです。福祉会では障害特性や性格を考え、できるだけストレスが少ないメンバーの構成を慎重に考えていらっしゃいます。また、なるべく落ち着いた日常を過ごすには、視界に入る人間の数や喧騒を考慮すると9名では少し多すぎるようです。」

建築計画では、二つの完全に独立したグループ分けではありません。玄関は共有で玄関を通過して左右に分かれます。左右のゾーンには別々に居室、食堂、トイレ、洗面はありますが、浴室は1カ所であり、完全に別れて暮らすことにはしていません。

この9名の方の全員日中活動に出向く人たちです。浴室やトイレの形状は、重い身体障碍や今後の高齢化を想定した仕様となっています。 現在計画中のグループホームはこの菜の花ホームに比べれば、自力でやれることが多い人の集まりだと思います。

2:自立度の高い方の住まい

自立度がもっと高くなるとどうなるのでしょうか。 菜の花ホームの全体プランを見てください。図面の左側に建物があります。これも知的障害者の方の住まいです。 自立度が高く、ほぼ一人で暮らせるが、食事の準備などが十分できない方たちの住まいです。 各居室は独立して外部廊下から入ります。一般のワンルームマンションと同じです。中に食堂が1室ありますが、支援員さんが準備をし、ここで皆さん食事をとります。

3:こころみ グループホーム もちぶね壮 たじま荘

二つのグループホームは建物は一体で作るが、玄関から分けてあり完全に別れて暮らす考え方です。心身の状況は見守りが必要ですが、程度は異なります。

図面

西側のグループホームはもちぶね荘です。生活も自立的にすごす利用者を想定していて、リビングは少しコンパクトにつくっており、主に各自の個室で過ごす時間が多いイメージです。
身体的にも自立度が高い利用者で、基本的にはトイレや浴室はご自身で使用する想定です。
東側のグループホームはたじま荘といい、介助が必要な利用者を想定したつくりとしています。ダイニング・リビングは対面キッチンが置かれて利用者とコミュニケーションをとりながら世話人の方が食事の準備をします。車椅子や歩行器を使う利用者や、食事介助が必要な利用者を想定した広さにしています。
時にはもちぶね荘の利用者と一緒に食事会をすることもできます。

4:夜間のみグループを分離する例

入所施設で検討した例です。

図面

入所施設で今回計画するグループホームの利用者の自立度と比べると低いですが、人間関係をスムーズに暮らすために、夜間のみ少人数に別れて暮らしたいという施設側の意見で検討したものです。
図は女子棟で、隣接して男子棟があり食堂は共用で使います。日中は図のリビングや個室で過ごしますが、夜間は分かれて暮らすようにしています。各ユニットにはトイレが設置されています。ユニットを区切る扉は施錠することもできます。
この計画は実現しませんでしたが、利用者の人間関係が支援員の負担になっていること、気の合う人と合わない人が毎日の暮らしには大きな要素となっていることを現地調査でよくわかりました。

計画の可能性

今回の計画するグループホームは上記例1,3,4に比べて自立度が高い方達です。2の例ほど自立して生活できる状態ではないと思います。
現在のグループホームを調査して感じたのは、お互いの関係性が強いということです。自立度が高いことは、感情も豊かであり、主張があります。感情を抑えることが苦手な人もいます。そのために少人数のユニットという選択が出てきます。
この小人数も分け方、厳密さも様々なことが可能です。
計画をスタートしたところですが、自立度、感情という視点から障害者のすまいを考えていきます。検討過程や結果は担当者からこのデザインスタディーでお伝えします。