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障害者
床走行リフトの検証 トイレ介助で必要な寸法 清水大輔
ゆう建築設計では、建築計画との関わりの中で介助機器についても独自に研究、検証を随時行っています。本記事はトイレ介助で床走行リフトを導入する場合のタイプ別の使い勝手と必要な寸法について、2018年4月時点の情報を基にまとめた内容を公開します。
(床走行リフトの基本的なタイプ分類と使い勝手については2021年5月時点でも大きな変化はありません)
国内で入手可能な床走行リフトは調べたところ14種類ありました。
・利用者の身体状況にそれぞれのリフトがどこまで対応できるのか?
・介助する人にとって負担の少ない方式はどれか?
・使用するにはどのくらいのスペースが必要になるのか?
といった特長を分類し、実機で試せるものを順次体験して使い勝手と計画に
必要な寸法を検証しました。
●床走行リフトのタイプ
現在販売されている床走行リフトは吊上げ式と立位式の大きく2つのタイプが
あります。吊上げ式はスリングをつけかえることで寝たきりの方まで対応が可
能ですが、取り回しにスペースが必要になります。
取り回しの軽さや安定性を考慮すると天井走行リフトがよいのですが、天井に
下地が必要で改修で設置するには大掛かりになることや、グループホームなど
小規模な建物でも導入を検討するケースが増えていること、スタッフの介助に
かけられる時間、手間数を減らしたいことなどが背景にあります。
いくつかの物件で床走行リフトの導入を検討していますが、いずれもトイレ
や脱衣室での運用を想定しているため、省スペースでの取り回しが可能であるこ
とが重要な判断のポイントになります。
●重心移動方式の床走行リフト
スペースの面からすると立位式が断然有利なのですが、立位が取れること、下
半身に荷重がかけられることなど、身体状況が限定されるということがありま
す。
グループホームの計画で、座位は取れるけれども立位までは不可という利用者
に使えるリフトで小型のものを探していて、立位式の中でも重心移動方式とい
うタイプがあり、適応条件が「補助ありで端座位(注:椅子に座った状態)が可
能な方」となっている為、立位姿勢が取れない方でももう少し広い範囲で対応
が可能ではないかと考えてメーカーに連絡を取り試してみました。
試したのは、アビリティーズ・ケアネットの「ささえ手」というリフトで
す。てこの原理を使い、前傾姿勢を取ることでスリングを用いずに主にトイレ
介助時の移乗ができるという商品です。ガスダンパーを併用することで、任意
の位置で姿勢を固定できるという特長があります。
最初にアビリティーズ・ケアネットの方から使い方の一通りの説明を受け、特
長を理解してから実際に計画中のグループホームのトイレ寸法を例に、椅子を
便器と車いすに見立てて床走行リフトの取り回しを検証しました。
今回の記事は建築の平面計画に必要な寸法について検証したことを中心に書きます。
●机上検討では分からない取り回し寸法
実際動かして見て分かったのは、床走行リフトは真横への移動が難しいため、
リフトをひねりながら前後させる動きが主になり、その時に操作に慣れていな
いとかなりの奥行きが必要になるということでした。また、床走行リフトの台
に足を乗せる際に、自力でできない場合はスタッフが車いすの横に身体をすべ
り込ませて介助するため、幅の方も必要なことも感覚として分かりました。
床走行リフトの横移動を減らし、旋回を中心にしようと思い、便器と車いすの
位置を90度にしてもやってみました。実際にやってみると取り回しの途中で
スタッフの身体がトイレの外に出てしまい、建具を開けた状態でないと取り回
しできないことが分かりました。
内側のラインが計画中の寸法(幅1650×奥行き2040)で、外側のラインが今日
実際に取り回してみてこのくらいあった方がいいと考えた寸法(幅2150×奥行
き2540)です。
内側のラインでも、トイレ内に便器と車いすと床走行リフト以外何もない状態
であれば身体を壁にすりながら何とか使えそうではあるのですが、グループホ
ームなど施設ではなく住宅スケールでの計画となると、他の部屋との面積の取
合いになるのでどこまでの広さでよしとするかはCADの机上検討だけでは判
断できない現場スタッフとの打合せが必要なポイントだと感じました。
アビリティーズ・ケアネットの方には予定時間を大幅に超えて検証にお付き合
いいただきました。ありがとうございます。