設計コンセプトConcept

高齢者

Withコロナの生活  建築でできること

 ~感染症に負けない高齢者福祉施設へ~

  新型コロナウイルス感染拡大防止の中で

岩﨑 直子

常務取締役
一級建築士

 

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    1.ユニット型特別養護老人ホームが今 行っていることと 建築でできること

    2.特別養護老人ホームのBCPの具体例

    3.With コロナの生活での高齢者のための建築を考える

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高齢者施設において、コロナウイルスの影響で、利用者・職員の皆さまにとって介護という人と接することが当たり前であったことが、さらに緊張を強いられる状況となってしまいました。また、入居者の方々の外出禁止をはじめ、ご家族や来設者も立入禁止となり、入居者の方との面会も画面越しとなりました。その中で入居者の方の日常のメリハリを作ることが難しく、ADLの低下・認知症の進行を心配する声が聞こえています。
入居者のエリアでの感染症対策は、コロナ以前の取り組みを継続することで「変わりない」という言葉も聞かれた一方で、職員や来設者から感染症が持ち込まれるというリスクにとまどう声が多く聞かれます。このWithコロナの時代において、感染症に負けない高齢者福祉施設にするために、私たち建築設計者が、何ができるのかを早急に考えなければなりません。

 

 

 

 

 

高齢者施設のエントランスの様子 来館者の制限やサーモセンサーによる検温が実施されている

 

1.ユニット型特別養護老人ホームが今 行っていることと 建築でできること

 

①3密(密閉・密集・密接)を避ける工夫

 感染対策の第一歩として、3密を避けることはすでに実践をされていることと思います。密閉を避ける工夫として建築でできることに「換気」があります。感染リスクを低減するため、大半の施設が窓を開けることで、換気を行っています。これが「自然換気」です。一方建築には、建築基準法上必要な換気量が定められ、換気設備が備わっています。つまり、窓をあけるのではなく、換気扇を回すことで部屋の空気を入れ替える「機械換気」を行うことができます。通常1時間に2~3回の空気が入れ替わる能力となっています。
 今回のコロナウイルス感染症に関して、推奨される換気回数について明確な数字はありません。私たちは、個室やユニット全域での空気の流れを把握し、新鮮な空気の流れや、汚染された空気が拡散されないような給気口・換気扇の配置を考えています。

 

②感染者発生前後の対応

 利用者・介護者双方において、感染が疑わしい方が出た場合、厚生労働省老健局より業務継続ガイドラインが出されています。 いわゆる新型コロナウイルス感染症BCPですが、「施設・事業所内を含めた関係者との情報共有と役割分担、判断ができる体制の構築」が掲げられています。
 入居者に関しては、個室に移動することや、担当職員を分けて対応することとなっています。その後保健所指導に従い、原則入院となっていますが、市中感染者の増大により病床がひっ迫している場合は、施設内で待機することとなり、クラスターの発生も懸念されます。そのような状況で、事業者が自衛の策を講じておくことが大切になります。

 

③利用者・介護者の心理的負担軽減

 ワクチン接種の道筋が見えてきましたが、おそらくワクチン接種後も、感染症対策を継続していくこととなります。Withコロナの生活で行動制限を強いられる中で、感染リスクの低減を実践できていることが、利用者・介護者の心理的負担の軽減につながると考えています。
 建物のつくりと密接になるのは、入居者、職員、モノ(外部からの物品搬入、内部からの汚染物などの搬出など)の動線の完全な分離です。通常時は不要な動線の分離も、感染症対策時には動線分離が可能なプランにしておくことが理想的です。
 さらに、行動制限が行われる中で、敷地内・建物内でのパブリックスペース・セミパブリックスペースのあり方が重要になってきます。建物内で利用者が密を避けて過ごすことができ、余暇を楽しめるスペース、建物外周の散策路など、選択肢を持てる施設計画が有効と考えています。

 

 

2.特別養護老人ホームのBCPの具体例

 

 感染症発生時の建物内のリスク管理について、考えてみましょう。
 2012年に開設した社会福祉法人福知山学園 地域密着型介護老人福祉施設 「橘」において、2021年度に義務化されるBCP策定に、いち早く取り組まれていますので、ここに紹介します。

 

①市中感染者増大時の対応

 施設が存在する市町村において、感染者が増加傾向にある時、介護職員の感染が懸念されます。
 入居者のエリア分けは当然ユニットで行われていますが、介護職員の行き来もエリア分けします。食事提供も含め、2ユニットごとの協力ユニット同士のみに限定しています。通勤もおのおののエリアへ直接出入りすることになります。

 

②感染者発生時の対応

 陽性者が出た場合、ユニット内の個室に隔離するのではなく、多目的ホールへ移動し、隔離します(拡大図参照)。その際、担当職員の建物の出入り口も通常ルートとは別の動線を確保します。既存の建物でのゾーニング・対応を検討しておくことが重要になってきます。感染症発生時を見越した職員体制も併せて検討していきます。

 

3.With コロナの生活での高齢者のための建築を考える

 

 今後Withコロナの生活の中で、エリアの区分けや接触しない動線、感染対策物品の管理など建築設計の中でより強く求められていくでしょう。
 高齢者福祉施設では、利用者の方だけでなく、介護者も守られなければなりません。

 私達はあらためて「利用者+介護者の建築」に取り組むことにしました。もうすでに、新しい計画に向けて考え出されている事業主がいらっしゃいます。
 ゆう建築設計では、この「時空読本」で、建築設計でできることを発信していきます。新築計画、増改築計画に関わらず、建築でできることを、事業主の皆様、介護サービスに携わる皆様と共に考えていきたいと思います。