設計コンセプトConcept

精神科

新しい精神科病院の紹介
 ー住宅街に包まれた精神科病院ー

医療法人社団 綾瀬病院   東京都足立区

病院設⽴から70 年が経過していく中で、周辺に住宅街が広がっていき、⽣活環境の中に包まれた病院となっていきました。
建替え前の病院の姿は、敷地内が⾒えない⾼い塀に囲われた上、脱⾛を防⽌する有刺鉄線が塀の上に設置され、ゆるやかに形作られてきた⽣活環境とは似つかわしくない様相を呈していました。病院周辺の発展の経緯から、近隣の⽅は精神科病院に対して好意を持たない感情は⾼くないと感じました。そのため、新病院は塀に囲われて閉鎖的に孤⽴させるのではなく、地域と共にあり、隣接する歩道を通れば外壁に⼿が届きそうな距離感の精神科病院としても何ら問題は起きないと考えました。しかし脱⾛を試み、また奇声を発する⼊院患者が起こす周辺住⺠への迷惑⾏為は実際に起こります。
それらに対する物理的な制御と、従来の姿からの束縛を解いて⾃由になった病院の⼼象を獲得するため、様々な課題を建築的な対応で対処しました。

鳥瞰CG 縦長窓の保護室が道路に面している

 

建物周囲

歩道は区条例に基づき敷地内に設置しました。また、現⾏の医療法による⾯積や廊下幅の基準により、新病院の延床⾯積は既存病院より⼤きくなります。敷地を増やすことはできませんので、結果として敷地いっぱいの計画となりました。それに起因し、塀を設けないこの病院は、歩道との距離が近くなり、病室と保護室が道路に⾯しているため、建物と歩道の間をゆるやかに境界が区切られている雰囲気となるように植樹を⾏いました。

建物周り:⾼中低⽊を組み合わせた植樹帯に植えられ⽊々の成⻑が期待される

 

外来

外科・内科・精神科・⼼療内科を標榜する病院には、地域の⽅が多く訪れます。建て替え前の外来は全ての診察室が横並びとなっており、待合でそれぞれの受診者の混在が⾒受けられました。

地域の⽅が気軽に来院されますが、周囲の⽬を気にされる⽅もおられます。そのため、病状の違う患者の距離感を⽣み、来院された⽅へ気遣いのこもった取り計らいができるよう、それぞれの診察室と待合を受付の左右に分ける計画としました。

外科・内科待合は外光あふれる明るい廊下に⾯した場所とし、精神科・⼼療内科待合は扉で仕切られた、落ち着き、安⼼できる場所としています。受付は⾵除室を抜けた⽬の前にあります。そこで診療科⽬を伝え、それぞれの待合に向かいます。⾵除室前のタイルとエントランスホールの床材は近い⾊柄とし、外部からの⼊りやすさ(導きやすさ)を形作っています。

外科・内科待合:エントランスホールから続く仕上診察室等へ向かう廊下は床仕上げを分け、エリアを明確に

 

病棟

病棟は男⼥混合病棟です。各階病棟廊下の中央付近に、夜間時に男⼥分けができ、かつ⾒通しがよい扉を設置し、時間帯によって開閉する運⽤をしています。

廊下は⽩を基調とした内装とし、患者が多くの時間を過ごす病室と各階のデイルームおよび⾷堂・談話室は暖⾊系の仕上げを⾏い、やわらかな雰囲気の中で過ごすことができるようにしました。

各室の扉は⽩⾊(職員⽤)と濃い茶⾊(患者⽤)の2 種類に分け、廊下に出た際の部屋の認識向上を意図しています。

1 階デイルーム:中庭に⾯して設置

 

2 階⾷堂兼談話室:外光をふんだんに取り⼊れ、仕上げのやわらかさと相まって、明るく憩いの場所となる
特室 個室
1 階廊下:⽩⾊基調の中、⻘⾊を部分的に⽤い、空間を引き締めている 2 階廊下:⽩⾊基調の中、淡紅⾊を部分的に⽤い、やわらかな空間とする

 

院内の安全対策と外部への対応

⼿すりやドア丁番には紐等が引掛けにくい部材を選定し、また⼤便器のもの詰め対策のため掃除⼝付⼤便器の採⽤等、精神科病院特有の安全対策と運⽤に対する復旧のしやすい建材を採⽤しています。
特に重要となる保護室の仕様については⼊念に打合せを⾏い、決定しました。
病院全体の対応として、視線対策には型板ガラス(視線は通らないが、⼈影は感じる)を採⽤し、声漏れに対してはサッシの遮⾳性能を⾼めることで対応(病室は遮⾳性能T-2 のアルミ製サッシとし、保護室は2 重サッシで遮⾳性能T-4 のアルミ製サッシを採⽤)しています。

 

病室構成

病室は4 床室(17 室)を基本とし、5 床室(3 室)、2 床室(3室)、1 床室(8 室)で構成しました。

1 床室はシャワーとトイレ付の特室が1部屋、トイレ付の個室が3 部屋とし、別に保護室4 部屋を含みます。

どの病室もしっとりとした⾊を使い、安⼼できる時間を過ごせるように計画しています。

4床室