設計コンセプトConcept

障害者

知的障害者の特性に合わせたすまいのディテール 1
   <強度・破壊への⼯夫>

 

ゆう建築設計では、知的障害者の特性に合わせてさまざまなディテールを考えています。

既製品があれば様々なメーカーの商品を比較し、知的障害者の特性に合わせて使えるディテールか使えないディテールかを考えます。使えるディテールの既製品がなかれば一から仕組みを考え、実験を重ねながら知的障害者の特性に合わせたディテールを作ります。

ここでは、ゆう建築設計で考えた様々なディテールをシリーズでご紹介します。
第1回は、破壊・強度への工夫です。

(1)壊されにくい建具 (2)窓の破壊対策 (3)壁の工夫 壁の強度など
(4)トイレの工夫

 

(1)壊されにくい建具

1. 建具の強度 〜破壊対策、軽量化〜
 木製堅牢建具は、破壊対策と軽量化 を行っています。

 ①破壊対策。
 • 下地に合板を使い靱性を強くしている。
 • 合板の厚みは強度試験を行い決定した。
 • 表面強度を高くしている。

 ②軽量化
 • 万一外れた場合を想定し重量を 出来るだけ抑える。

改修前の建具 改修後の建具
①強度試験 ②重量確認

 

2. 素材 〜建具の種類〜
建具の素材は3種類あり、用途に合わせて選びます。

①鋼製建具
• 鉄製のため頑丈だが、
 重いため引き戸に向か
 ない。
②軽量鋼製建具 (写真は病院の例)
• 肉厚の薄い鉄を使用し軽量化して
 いるため、建具は凹みに弱い。
③木製建具
• 一般的に軽量で壊れやすいが、弊社
 では、合板を使うことで壊れにくい
 木製堅牢建具を作りました。
• 木製のため壊れても直しやすい。

 

3. 開き方 〜引き⼾と開き⼾〜

強度行動障害と児童で破壊行動が考えられる場合は、建具は開き戸とし、それ以外の建具は引き戸としています。

①引き戸

• 基本的にはスペースが有効に
 使えるため引き戸を選択する。

• ただし、構造上建具を上から吊
 るため開き戸より建具が外れや
 すい。

②開き戸

・強度行動障害の方や児童で、扉を非常に激しく扱う人がいる場合
 開き戸を採用します。

• 建具を蝶番で止めるためほぼ外れない。
• ただし、扉を開く際、開けた扉が人に当たる可能性がある。

 

4. 指詰め防止 〜ソフトクローザ、中⼼吊りタイプのフロアヒンジ〜

引き戸の場合、開閉時の勢いを吸収するためソフトクローザを指詰対策に使います。

表:引き戸の指詰め対策
①ソフトクローザ ②戸先ゴム ②戸尻ゴム ②跳ね返り防止金物

※ソフトクローザは激しく使うとソフトクローズ機能が機能しなくなる。

■ソフトクローザの現状
• 50ヵ所の建具の内2ヵ所が常時故障。
→無理な開閉、想定以上の力により、故障や上手くス トッパーが作動しなくなる。
 現状はストッパーを外している状態。

■現場の対応例
• 建具に注意喚起のシールを貼りスタッフが利用者が建具を締める時にシールを見るように
 呼びかける。

注意喚起のシール 一旦ラインを合わせてから扉を閉める

 

5. 補強 〜吊り⾦物の外れ防止、建具の外れ防止、鍵補強〜

木製堅牢建具は、吊り金物及び建具の外れ防止対策及び鍵の補強を行っている。
 ①吊り金物外れ防止
 • ステンレス製のカバーで吊り金物が抜けないように補強金物を設置している。
 ②建具の横外れ防止
 • ガイドバーを1ヶ所から3か所に増設して補強している。
 ③鍵補強
 • 建具及び枠の既製品鍵をステンレス金物で覆い、ビスの数を増やして補強している。

①吊り金物外れ防止補強 ②横外れ防止補強
③建具側鍵補強 ③枠側鍵補強

 

(2)窓の破壊対策

ガラスの種類
強度行動障害の利用者や児童のガラス破壊への対策。利用者の特性に合わせて4種類から選択
する。

 ①普通ガラス • 割れると破片で怪我する。
 ②強化ガラス
 • 強度が強く割れにくい。
 • 割れてもガラスは粉々に丸く割れるので破片による怪我がない。
 ③アクリル
 • ガラスより割れにくい。
 ④ポリカーボネート
 • アクリルより割れにくい。
 • 経年により擦り傷が目立つ。

①普通ガラス ②強化ガラス ③アクリル

 

(3)壁の工夫 壁の強度など

1.壁の強度
 壁の硬さは壁のボードに大きく左右されます。

①壁仕上げ下地仕様 

• 石膏ボードの種類と厚み によって壁の強度が変わる。
• 硬くて壊れない壁は、叩いた利用者が怪我をする可能性がある。
• やわらかい壁は、叩いた利用者は怪我はしないが壁が壊れる可能性が
 ある。

石膏ボード
表:壁仕上げ下地仕様とコスト

 

2.ボード下地

 小さな力でも繰り返し力を加えることにより壁が破損した事例がある。

■対応策
• 表面強度の高いセラールを貼ることで対応することが出来る。
• 新築の場合は、LGSの間隔を狭くし壁下地の強度を上げることで対応することが出来る。
• ただし、コストがかかるためどこまで対応するか考える必要がある。

小さな力でも繰り返すことにより壁が破損
表面にメラミン化粧板を貼って改修するも一部破損

 

3.やわらかい壁の仕上げ

強度行動障害の利用者が、どうしても壁に頭などを打ちつけるなど、怪我されることが想定される場合への対応。

■やわらかい仕上げ
• 表面にクッション性がある床材やクッションを貼ることでやわらかい壁に出来る。
• 利用者の特性とコストを考えながら採用する必要があります。

クッション壁 不燃クロス吸音材
壁仕上げとコスト

 

4.遮音対策

利用者のこだわりで、テレビの音を大きくする人がいたり、逆に、聴覚過敏の人がいる。

■グラスウールと千鳥スタッド
• 菜の花ホームでは、壁を叩く人がいると想定してグラスウールを充填。
• 備考(病院、特養)は病院 及び特養の弊社の一般的な仕様。
• 遮音性能は利用者の特性 とコストを合わせて検討する必要があります。

表:遮音壁の仕様

 

(4)トイレの工夫

1.便座

体を投げるように便座に座る 利用者がいる時の便座の対策。

■金属製ベースプレートとロッド
• 過剰な横荷重に対し便座のベースプレートとロッドが壊れて、便座が外れ転倒しないように
 金属性のベースプレートとロッドを採用する。