設計コンセプトConcept
透析
感染リスクを低減する空調換気システム
ゆう設計では、快適な透析治療空間を実現するために、独自に考案した空調・換気システムをご提案しています。特に、夏場の透析室では、空調による「局所的な気流(ドラフト)」が患者に不快感を与えることから、空調の吹出風速を抑えることで、長時間の透析治療において患者の身体への負担を軽減する「ゆう設計空調システム」を提案しています。 | 木下 博人 |
熱流体解析ソフトを用いて設計内容を検証しています
「ゆう設計空調システム」とは
1 超低風速空調
一般的な天井埋込カセット形の空調が、速い吹出風速で風を遠くまで到達させるのに対し、ゆう設計空調システムではゆう設計指標に基づき速度を抑えた風を、水平気流用吹出口により吹き出すことで風を天井に沿って部屋全体に拡散し、ベッド到達時には患者が不快を感じない程度まで風速を落とすことが可能です。
2 外気取入循環式空調
室内の空気を循環させることで、透析室全体に空調を行き渡らせ、室内環境を均一化します(図1参照)。ベッド際の循環用吸込口付近は風の通り道になるため、患者が「局所的な気流(ドラフト)」を感じないように吸込風量(風速)を調整できるようにしています。
3 調節可能なシステム
空調の各吹出口・吸込口のダクトには「風量調節装置(ボリュームダンパー)」を設置します。完成時には風量測定を行い、その結果を元に各ベッドの環境が均一化するよう風量調節します。運営開始後、患者個人の感覚の差で、暑さ・寒さに問題が生じた場合には、ベッドごとに風量調節することが可能です。
4 中性能フィルターを設置し感染リスクを低減
透析室を設計する上で機械換気設備を設ける場合の換気条件の目安としては、病院設備設計ガイドライン(空調設備編)HEAS-02-2013(一般財団法人 日本医療福祉設備協会)の指針に基づき、外気による換気回数を2回以上、かつ、一人当たりの外気取り入れ量30m3/h以上としてきました。
2020年3月30日、厚生労働省は、商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について1)の中で、機械換気による場合、一人当たり30m3/hの換気量を満たしていれば、それだけで感染を確実に予防できるとは言えないまでも、「換気の悪い空間」には当てはまらないとの考察を示しました。
水平気流用吹出口(既製品) 市場に流通する資材を
組み合わせることで、コストを抑える
風量調節用吸込口 (ボリュームダンパー付)
2020 年6 月15 日、公益社団法人 空気調和・衛生工学会は、空調・換気によるCOVID-19の拡散はあるのか?2)の中で、空調・換気による感染症リスクの低減方法として換気による希釈とフィルタなどによる空中からのろ過を挙げ、人員密度を適切に管理した上で、換気回数2回/h以上を確保し、中性能フィルタが備えられている空調・換気システムでは、1 ~ 2mを超える範囲で新型コロナウイルス(SARSCoV-2)が飛散したとしても、その濃度は低く制御されるため、感染リスクは小さいとの考察を示しています。
ASHRAE(米国暖房冷凍空調学会)は、COVID-19が空調システムを介して伝染した報告はなく、空調システムが汚染物質を拡散させる可能性があるが、換気とろ過は感染リスク低減に寄与するとした上で、MERV-13,14相当のフィルタを推奨しています。3)
************************************************ ゆう設計では、これらの知見を元に感染症対策として、比色法90%の中性能フィルタ(MERV-13に相当4))を組み込むことのできるチャンバーボックスの設置を新たに提案しています。【新機能】 ************************************************
2021 年4 月1 日、公益社団法人 空気調和・衛生工学会は、MERV13 の粒径別捕集率(0.3 ~ 1.0 μ m:50% ,1.0~ 3.0 μ m:85 % ,3.0 ~ 10 μ m:90%)と、Notiら5)のインフルエンザウイルスの粒径別の構成比から求めたインフルエンザに対するMERV13のシングルパスの捕集率は78%であるとしています。6)
このことから、比色法90%の中性能フィルタ(MERV-13相当)を設置した空調システムでは、外気による換気回数を3回/h、空調機の還気を10回/hとした場合、計算上5分間で1回換気となり、5分ごとに室内から発生する粒径別構成比が同様な感染性ウイルスの78%が除去されると推測されます。還気を含めた換気回数13回/hは、清浄空気の換気回数10.8回/h(3+10×78%)に相当します。
ただし、中性能フィルタを設置する場合、一般的なフィルタに比べて運用コストがかかるため、市井の感染状況に応じて随時中性能フィルタを設置する運用としたり、前後のクールの入替時に窓開け換気をするなど、運用方法やコストを踏まえた空調・換気方式を検討することが重要です。
また、透析患者の感染を予防するために、NDIR 方式のCO2 モニターで室内CO2 濃度を計測するなどして、日頃から室内空気環境を把握し、換気の悪い空間とならないよう留意することが大切です。
ゆう設計空調システム概要図(図1)
<参考文献>
1)厚生労働省. 商業施設等における「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気について,2020 年3 月30 日, https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000616069.pdf
2)公益社団法人 空気調和・衛生工学会 新型コロナウイルス対策特別委員会. 空調・換気によるCOVID-19 の拡散はあるのか?空気調和・衛生工学分野の専門家からの見解,2020 年6 月15日,http://www.shasej.org/base.html?recommendation/covid-19/covid-19.html
3)ASHRAE. Can HVAC Systems Spread COVID-19?. May 31,2020,https:www.achrnews.com/articles/143255-can-hvac-systems-spread-the-covid-19-virus
4)大垣豊. 各告の一般換気用エアフィルタの規格における捕集率の比較に関する指針(JACA No.53),空気清浄, 第56 巻, 第1 号, pp.36-40,2018
5)Noti JD,Lindsley WG,Blachere FM,Cao G,Kashon ML,Thewlis RE,Mcmillen CM,King WP,Szalajda JV,Beezhold DH. Detection of Infectious Infl uenza Virus in Cough Aerosols Generated in a Simlated Patient Examination Room.Clim Infect Dis. 2012; 54: 1569-1577. DOI:10.1093/cid/cis237
6) 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 新型コロナウイルス対策特別委員会.新型コロナウイルス感染対策としての空調・衛生設備の運用について2021 年4 月1 日.http://www.shasej.org/recommendation/covid-19/20210507%20kaitei%20syusei.pdf