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高齢者

特養の15人ユニットを外山義さんはどう思うだろうか

1 外山さんの考える適正規模

特養のユニット人数は10人までとなっていましたが、令和3年から15人まで可能となりました。私どもにも、特養を15人ユニットで計画したいという依頼がきています。
15人に増えた時建築は何が変わってくるのだろうか。当然施設が15人ユニットを採用する理由によって、プランも変わってきますが、私がすぐに思ったのは外山さんはユニットの人数についてどのように考えておられたのかということです。
現在のユニットタイプ特養が制度として採用されるには、故外山義さんの考え方が大きな役割を果たしました。外山さんの著作「自宅でない住宅  高齢者の生活空間論」を読み返しました。
外山さんはユニットケアの規模を下記のように述べています。
「高齢者施設のユニットケア導入に際して筆者は、6~15人程度という比較的ゆるやかな幅を想定している」
私は外山さんが少人数のケアを推奨されていましたので、ユニットの規模は10人程度までを想定されていたのかと思っていましたが、15人程度までという記述には驚きました。先の言葉に続けて下記の記述があります。
「利用対象者の属性や状態像、また組み合わせによって適正規模が変わりうるし、ケアの質や建築空間の在り方によっても左右されるものであるからである。」
前半の属性やケアの質によって適正人数が変わるのは、良くわかります。「建築空間のあり方」によるとの記述は私どもがこれまで常に考えていたことです。この言葉に出会えたのは今回外山さんの著作を読み直して得た最も大きな点です。

2「建築空間のあり方」が生活の仕方を変えていく

●「生活単位」と「介護単位」

外山さんは従来型特養の規模単位に関して「介護単位」や「管理単位」ではなく「生活単位」を導入すべきと考えられていました。
大人数が「管理単位」で少人数が「生活単位」と考えがちですが、人数ではなく「誰のために設定された単位規模であるか」がポイントだと述べています。
つまり10人と15人の違いが大きな要素ではなく、住む人の属性と住む人の生活の場を作るという考えでユニットの単位を考えればよいということです。

●私どもは10人ユニットでは様々なタイプの共同生活室を作ってきました。

法的にはすべての居室は共同生活室に面しなければいけないと決められています。事業者の考えで、複数のたまり場を設けたいなど多様な要望があります。行政との協議で複数の共同生活室の扱いの部屋を設定することによって、食堂、日中過ごす場所を様々に作ってきました。

表1は私どもがこれまで計画し実現した共同生活室のレイアウトと面積を表しています。 Eは単一の共同生活室ですが、他はすべて複数の共同生活室と呼べる空間を持っています。これは入居者の居場所を一か所に限定せず、各自が落ち着く場所を見つけやすするためです。 特にAは中央の共同生活室にいる介護者から死角になるところに、別の居場所を作っています。この施設では利用者が思い思いに過ごすことを優先し、死角があても、介護者は入居者の生活をよく把握しているので問題はないという考えです。

表1.さまざまなタイプの共同生活室例

図1.既存棟共同生活室での食事の様子

●食事をする場所

特養の共同生活室での機能で、最も大きなものは食事です。共同生活室を複数持つ計画でも食事は一か所に集まり行うのが普通です。これは介護者の見守りのしやすさが大きな影響を与えています。 ところが最近は認知症の方が増え、テーブルの並びも様々に工夫して、10人が一体で食事をするのではなく、それぞれにあった介護方法で食事を受けています。 図1、表2は認知症の方が増えた施設の食事対応例です。既存施設では特性に合わせてレイアウト変える場合も、十分な広さがない場合が多くあります。図1の机レイアウト、介護者の位置は表2の「食事時の課題」を見ていくとその工夫がわかります。

表2.入居者の食事時の課題と職員対応。認知症の方が増え食事介護の負担が大きくなっていた。

3 15人ユニットの共同生活室

ユニットに住む人たちの生活を決めていくことに、共同生活室が大きな役割を果たしています。10人から15人に定員が増えたとき、考えなければいけないのはこの共同生活室が変わるのかどうかです。

●食事は一体で行うのか

10人ユニットの例でみたように、見守りの視点では15人が同じ場所で行うのが一般的になるでしょう。
しかし、15人に増えることは、様々な特性の方の違いが大きくなる可能性があります。また認知症の方も大幅に増えます。そこでは15人一体の食事場所、複数の食事場所などの検討が出てきます。職員さんの配置とも関係するこの項目が計画を決める大きな要素となります。

●日中の過ごし方

食事以外の時はご自分の居室で過ごす方も多いでしょうが、事業所によってはできるだけ多くのかたに共同生活室に出てもらう方針のところもあります。
広い部屋に全員が集まるケース、いくつかに分散するケースなど共同生活室の面積が増える分多様な計画が可能になります。

図2 は現在検討している特養の初期の計画です。この段階では共同生活室を3か所設けています。食事も3か所別々で行えます。ただし、運用してみて、2か所にまとめることができるようにしようという議論があり、2か所での食事が可能な広さとなっています。 食事場所複数案は15人ユニット中での、緩やかな細分化の検討とも関係しています。

●共同生活室の広さとコスト

この計画のユニット全体の面積が496㎡、共同生活室の合計面積が138㎡です。表1での10人ユニットのユニット面積、共同生活室面積と比較してください。面積が平均的な数値のCと比べますと、全体面積は1.5倍、共同生活室面積は2.1倍です。
このように共同生活室の過ごし方とかかるコストは今後の15人ユニットの大きな検討課題となります。

図2.計画中ユニット平面図

4「建築空間の在り方」

外山さんが指摘されたユニットの適正規模は「建築の在り方」によって変わるという指摘は、15人と利用者の人数が1.5倍になることによってより重要になってきたと私は思っています。