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障害者
知的障害者施設の家具 vol.1
意外に多い、注文家具の設計
知的障害の方が利用する建物の計画において家具の設計をすることがあります。 壊れにくさ・触れにくさを求めるが故に、既製品では対応ができない場合に設計するケースが多く、そのため障害が比較的軽い方の建物ではあまり例がありません。 ここではこれまで手掛けた、もしくは計画中の注文家具についてご紹介します。
テレビ収納ボックス
依頼の多いナンバーワンはテレビボックスです。画面・配線に触れない、テレビそのものを動かせないようにすること、破損によりけがを防ぐことが目的です。お部屋の大きさによって適したテレビのサイズは変わり、それに合わせた大きさで製作します。最近は大画面テレビを選ぶ傾向にあり、ボックスもなかなかの存在感があるためインテリアに合うように素材を選定します。
画面の前には割れにくい透明のアクリル板を使います。叩いた時のたわみ代も考慮した奥行が必要です。もちろん、取り外しができる構造にします。
壁面収納一体型のテレビボックス
市販のテレビ画面保護カバー
本体は、角の面取り加工が容易な木の無垢材で作ることが多いです。樹種は全体の内装デザインとのバランスを考えて決めます。
最近知ったのですが市販の画面カバーも売っていました。ボックスまでは必要ないけれど、液晶画面だけは保護したいという時には採用できるかもしれません。
食事や作業を自分のペースで
パーテション付きテーブル
まわりが気になって落ち着いて食事やデスク作業ができないということはままあるでしょう。集中しやすい環境を作るために、テーブルの三方をパーテションで囲みました。この家具は強度のほかに清掃性が重視され、メラミンという耐水性のある材料を表面に使用しています。パーテションの高さの設定は自由で、求められる閉鎖の度合いで変わります。あまりに高いと厚みが大きくなり、当然ながら重くもなります。写真は配置を変えることができる可動タイプで、パーテションの高さは立っているスタッフの見守りを考慮し、130センチとしました。
可動式のパーテション付デスク。正面はマグネットに対応
固定椅子とデスクのセット
知的障害の方の中には、動く家具だと壊してしまう、あるいは窓から放り投げてしまう場合があります。窓から放り投げる方は、それを目の前から無くしてしまいたいという気持ちが強く出てしまう故の行動かもしれません。ですが同時に椅子に座って自立課題に取り組むこともできるため、固定式の机と椅子を計画しました。掃除のしやすさ、座り心地、インテリアの統一感から、座面は緩くカーブを付けた無垢の木でつくります。机といすの高さの関係はその目的や体形で微妙に変化します。微妙過ぎて正解が無いのですが、自分自身の身体経験も頼りに設計しています。
自室で自立課題を行うことを想定した椅子と机
コップが置けてゴミ箱も隠れる 手洗いカウンター
コロナ以降、ハンドドライヤーが世の中から消えました。その代わりにこれまで主に病院のスタッフステーションや給食施設で使用されていたペーパータオルがどの建物でも(時には家庭でも)主流になっています。それは知的障害の方のための施設でも同様です。自ずと使用済みのペーパーを捨てるゴミ箱が入用になりますが、手を洗うたびに出してくるわけにもいきません。そこで、店舗等では昔から意匠的な理由でデザインされていた家具組込式を障害者の施設においても製作するようになりました。ゴミ箱は施錠が可能なキャビネットの中に納まっています。ゴミの投入口は写真のようにカウンター上にあける場合とキャビネット扉につける場合とがあります。
TOTO製の洗面カウンターに特注家具を組み合わせている
また、うがいのためのコップの置場に困ることも多々ありますが、写真の手洗いカウンターは奥行30cmほどの物置台がカウンターと一体になった商品で、コップを入れたカゴ置き場として利用しています。水栓や石けんの吐水金具が出っ張っていないこともこの商品を選定した理由のひとつです。
2つ並んだボウルのひとつは、車いすの方でも利用ができるように下部を開放し、左側に介助を行う職員が立つスペースを設けています。
天井エアコン保護カバー
建物にはいろいろな設備が付属しています。コンセントや火災報知器など分解・破壊に対して対策を講じている施設は多いと思います。エアコンについても同様で、なんでも分解してしまう方がいらっしゃる建物ではフェイスの取れたままのエアコンがついているといった光景をよく目にします。天井の高さをぐっと高くして決して手が届かないようにするという方法もありますが、既存改修の場合は大掛かりになってしまいます。
写真の施設では天井高さが2.5mのお部屋の埋込式ルームエアコンにカバーを取り付けました。開閉時の安全対策の工夫はしていますが、木製で重量があるため軽量化ができればよいと思っています。
1方向吹き出しのエアコン用カバー
緩やかにスタッフエリアを区切る ハイカウンター
利用者さんがスタッフのパソコンや用具に触れることが無いように、これらを職員専用室に保管をするという考えが一般的かと思います。しかし、利用者さんとできるだけ空間を共有したいというご意見もありました。今計画中のグループホームのスタッフコーナーは壁で閉鎖をしていません。鍵付きの収納が多く組み込まれたハイカウンターで区切っています。カウンターは容易に乗り越えにくい高さの1.2mとしています。
収納力たっぷりのオープンカウンター。容易に乗り越えることが難しい高さ
鍵の管理はシンプルにしたい 収納キャビネット
建物内の収納にはたくさんの物品をまとめて保管する部屋(倉庫)と、比較的小さく、利用頻度の高い物品を納めるキャビネットがあります。倉庫の扉の鍵はマスターキー(もしくは同一キー)で管理していることと思います。つまり鍵を何本も持ち歩かなくても良いように建物内の多くの部屋の鍵を1本で施錠できるようにしているのです。
一方、キャビネットは一般的に「家具用シリンダー」という小さな鍵を用います。これはキャビネットの扉が倉庫の扉のように分厚いものではなく、普通の鍵が付かないからです。
面付本締錠 NDZ-AT2(美和)
ところが、現在設計中の施設でキャビネットの収納もマスターキーで開け閉めできるようにしたいというご要望がありました。持ち歩く鍵を1本にしたいという先の理由を考えるともっともなご意見なのですが、これまでそうしたことはありませんでした。 キャビネットの扉を倉庫と同じような厚さにすると不格好になるので、扉の中に入れるのではなく外付けの鍵を使ってみようと考えています。
このように知的障害者の建物には工夫を凝らした多くの家具があります。ここに掲げたものは施設・法人にかかわらず、採り入れがしやすい考えのもとに計画された家具達です。このほかに特定の個人を対象とした家具もありますが、それはまた別の機会にご紹介をしたいと思います。
今回ご紹介した家具のおおよそのお値段は次の通り(税抜き・設置費のぞく)
・テレビボックス(W1200*H1100):12万
・パーテション付テーブル(W1100*H1700):20万
・固定デスクセット(W750*H700):25万
・ゴミ箱収納付き手洗いカウンター(2ボウル、W1800):55万
・エアコンカバー(W1300*D600):3万
・収納ロッカー(W1500*H1800):35万
特注家具は既製品よりも割高となることは否めません。改造することも視野に入れて、既製品で活用できそうな商品は無いかということも考えてゆく必要があるでしょう。
「知的障害者施設の家具vol.2」ではそのような既製品の家具についての考察をお伝えします。