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障害者
重度心身障害の方の冷暖房選び
はじめに
重度心身障害があり、自分で動けない方、自分で意思表示が難しい方には、体調のきめ細かい管理が必要です。
夏場は冷たい気流が当たらないように、また、冬場は底冷えしないようにすることは、体調管理に繋がります。
今回、重度心身障害の方のグループホームの計画をする上で、採用可能な冷暖房方式について検討しました。
2種類の空調方式-対流式と輻射式ー
一般的に採用されるエアコンは、風にのせて室内に熱を送る対流式空調です。
メリットとして、コストが抑えられ、即効性が高いことが挙げられますが、風速があることと、温度ムラが生じることがデメリットです。
空気が対流するため、気流(ドラフト)が直接当たることによる不快感や書類・ほこりの巻き上げがあり、冬場に湿度が下がり、乾燥が気になります。
一方の輻射式冷暖房は、イニシャルコストは高くつくことが多いですが、快適な環境を提供します。 輻射式冷暖房は、あまり馴染みが無いため、実際に体感してみて初めて良さが実感できます。
輻射式冷暖房の特徴
・気流が無く、乾燥しないため、快適な温熱環境
・温度変化がゆっくりで立ち上げに多少時間がかかる。
・イニシャルコストが高くつく場合がある
・ランニングコストを下げる工夫をした製品を採用することで、長年使用した場合のトータルコストが安くなることもある
・夏に外から帰ってきた場合など、急に冷やしたい時には向かないため、別途対応が必要になる
冷暖房方式の比較
輻射冷暖房にも様々な方式があります。今回は、床暖房、パネル式冷暖房、ユカリラ、空気式放射吹出ユニットという4種類の輻射式冷暖房を比較対象にしました。
① エアコン
個室はルームエアコン、共用部(廊下・食堂)は業務用エアコンとしています② エアコン(夏)と床暖房(冬)
冬場は床暖房を利用。床暖房には温水式と電気式があり、電気式の中には蓄熱式と非蓄熱式があります。今回は土壌蓄熱式床暖房を選定しています。③ パネル式輻射冷暖房
壁面に冷温水のパネルを設置します。パネルは金属製と樹脂製があり、今回は樹脂製を選定しています。④ ユカリラ
床下に送った暖気/冷気を床パネルで輻射熱に変換する設備です。⑤ 空気式放射吹出ユニット
エアコンからの供給空気を利用した、低風速での空気吹出し及び放射性能を備えた吹出口です。<参考文献PDF>
②床暖房と⑤空気式放射吹出ユニットは、エアコンに追加して設置しますが、③④はエアコンの代わりに設置します。
これらの一般的な特徴を表にしました。
<表1>特徴比較(PDFはこちら)
輻射冷暖房の提供する温熱環境は、適切な機器を入れればそこまで差がありません。
コスト以外はデメリット項目の比較が主になります。その際、機器のメンテナンスも考慮が必要です。
また、新築時の導入が想定されている②蓄熱式床暖房と④ユカリラに対し、改修でも採用できるのは①エアコン③輻射パネル⑤空気式放射吹出ユニットの3つとなります。
具体例での設置検討
今回は新築の木造平屋建グループホームの居室11室と食堂・廊下を設置検討箇所としました。
今回の計画で考慮するポイントとしては
・居室ごとでの制御ができるか
・想定稼働時間
・どのくらいのコスト差があるか(イニシャル・ランニング)
・必要なメンテナンス、故障時の対応のしやすさ
が挙げられます。
今回は断熱・換気の条件として、
・複層ガラス(金属製サッシ)で各室に腰窓・掃き出し窓を設置
・断熱等性能等級4
・ロスナイ設置無し
として比較しています。
※断熱性能等を上げると必要機器数が変わるものもありますのでご留意ください
<表2>採用可否の検討(PDFはこちら)
表を見ると一概にどの方式が最良とは言えないことがわかります。
そこで、計画にあたり、何を重視するかを考える必要があります。
・冬場の底冷え対策を重視して、②蓄熱式床暖房を採用する
・作動時に音・においがないことを重視して②蓄熱式床暖房や③輻射パネルを採用する。
・改修であるので、⑤空気式放射吹出ユニットを採用する。
今回の計画では、居室の扉を見守りがしやすいように開けた状態とする計画です。そのため、居室・食堂・廊下をできるだけ同じ温熱環境にすることを計画していました。
輻射式冷暖房は、他の部屋にも輻射熱が壁を伝わる二次輻射という効果もありますが、全エリアに設置できるのは①エアコンと④ユカリラとなりました。
コスト
一方、採用に当たっては、コストが大きな要素になります。
仮に35年利用する場合の床材・工事費込みのコストを比較しました。空調機器のみ2回の入れ替えを想定しています。
また、ルームエアコンの価格を10万円とし、利用者が昼間に通所事業所に通うことを考慮して居室のルームエアコンは24時間稼働ではなく随時ON/OFFをする前提としています。
・イニシャルコストは、方式によりますが、エアコンに比べ1.5~5倍と高くつきます。
イニシャルコストは安い順に①エアコン、②エアコン+床暖房、⑤空気式放射吹出ユニット となりました。
・一方、ランニングコストについては、エアコンの6割程度~エアコンと同等という結果になりました。
ルームエアコン・パネル式冷暖房で使用する電圧(100V)に比べて、その他の方式の電圧(200V)に
適用される電気料金がかなり安いため、ランニングコストに差がつきました。
ランニングコストが安いものは、①ユカリラ、⑤空気式放射吹出ユニット、②エアコン+床暖房の順となっています。
・イニシャルコスト・ランニングコストと機器の入替えを含めた35年間の総コストでは、ランニングコストの影響が大きく、
④のユカリラ、⑤空気式放射吹出ユニットの順に有利な結果となりました。
コスト面では、
・長期使用での総コストを重視して④ユカリラや⑤空気式放射吹出ユニットを採用
・イニシャルコストを抑えることを重視して①エアコンや②エアコン+床暖房を採用
・全体ではなく、部分的な採用とすることでコストを抑える
という選択になります。
最後に
輻射式冷暖房を実際に冬場に体験した際に、私は「春先の心地よい時期の気温」だと感じました。
一方で同行者は「少し寒かった」と言っていたので、個人差がありました。
輻射式冷暖房は、ベースの室温を整える設備です。人による個人差は、寒く感じる人には毛布をかけ、暑く感じる人には扇風機を使用するなどの対応をすることになります。
また、冷暖房の計画時には、空調だけでなく、同時に換気の設計(ロスナイを採用するなどで外気が直接入らないようにする)や、建物自体の断熱性能を上げることも合わせて検討が必要です。