Design StudyDesing Study
障害者
収納の見える化で働きやすい環境をつくる
障害者施設を運営する「福知山学園」では、複数の施設計画を通じて「収納のあり方」を検討しました。
ここでは、障害者入所施設「みわ翠光園」、障害者グループホーム「EAST-SIDE・WEST-SIDE」での実践例を取り上げます。
まず、通底する設計コンセプトのひとつに「働きやすい職場環境の整備」があります。
スタッフの労務上の負担を減らすために収納に関して考えたいくつかのポイントを列挙します。
・収納にアクセスしやすい(移動負担を軽減する)
・出し入れの際の施錠管理の負担を軽減する
・適正な在庫を保つ(過剰在庫や不良在庫を削減する)
・いざという時に使うもの、日常業務で使うものを分類/集約/分散する
アクセスしやすい位置に物品を保管・管理する
建物中央部に位置する1階職員室と直上にある2階最重度ユニットのスタッフルームをスタッフ専用階段で繋げています。これらの管理エリアに収納を併設することで、建物のどの場所からもアクセスしやすい収納計画としています。
1階には「物品保管庫」「行事用物品保管庫」、2階には「物品保管庫」を設けました。
管理エリアに併設する収納スペースの作り方には共通のルールがあります。
・執務スペースから直接アクセスできる
・扉を設けず一体的な空間とする
・回遊動線とする
いずれもアクセスのしやすさや動線効率に配慮した工夫です。
独立した収納部屋ではなく、執務スペースの延長上に収納を設けることで得られる管理上の利点があります。
オープンラックに日用品や消耗品を納めることで、一連の業務の中で在庫状況を把握できるとともに、物品を一元管理することで適正な在庫を保てること。物品の出し入れのために逐一施解錠する負担が軽減されること。これらはスタッフの作業負担の軽減に繋がります。
いざという時に使うもの、日常的に使うもの
みわ翠光園には長期の保管を目的とした「感染対策物品保管庫」「非常食保管スペース(3年分)」があり、まとまった量を保管しています。
1階の物品保管庫には一定期間必要な分だけの感染対策物品が保管され、使用状況に応じて感染対策物品保管庫から随時補充されます。1階の物品保管庫は中継基地として、2階の物品保管庫に補充する役割も担っています。このように物品の集約が段階的におこなわれることで、移動負担が軽減されるとともに、限られた収納スペースを有効に活用することができます。
1階平面図
2階平面図
1階物品保管庫:オープンラックに収められた物品。何がどこにあるか視認しやすい。
1階行事用物品保管庫:季節ごとに透明なケースに分類され探しやすい。
施設の顔となる玄関はすっきりとした印象に
利用者用玄関、職員玄関とは別に管理エリアのメイン玄関があります。来客対応を兼ねる玄関ですが時には大量の物品が納品されるため、事務室から見通すことができる位置に一次置きの倉庫を設けています。ウォークスルー方式で土足で入ることができます。住宅のシューズクロークのように玄関とは壁を一枚隔てることで物品が丸見えとならずすっきりとした印象です。
玄関の様子。壁を隔てた奥に倉庫がある。
事務室側から見た倉庫。大量のオムツが見える。
グループホームでの収納計画
みわ翠光園で実践した収納計画を住まいに落とし込むことで、よりコンセプトが明確になりました。
グループホームでは、入居者ゾーンと管理ゾーンを明確に分けることで、管理ゾーン内は施解錠から解放された自由な空間となりました。
物品を集約するストックヤードは管理ゾーンの中心に位置しています。
ストックヤードを取り囲む執務スペースやキッチン、脱衣室のいずれからも距離が近くアクセスしやすいことに加え、回遊動線とすることで複数のスタッフが作業する場合でも動きやすい動線計画としています。
このアクセスしやすいストックヤードにはオープンラックを設置し、何がどこにどれだけ納められているかを即座に把握することができます。このことが適正な在庫管理を可能にしています。
ストックヤードの様子。設備のメンテナンススペースと兼用し無駄な廊下がない。
管理ゾーンの中央にストックヤードを配置し、物品にアクセスしやすい。
また、現場で日常的に使う物品は場所ごとに管理する方が使い勝手がよいのはもちろんですが、障害者施設の特性上、常に施錠管理をおこなう必要があります。洗面コーナーに設けたコップ収納棚を例に挙げます。
みわ翠光園では、棚を上・中・下段に分けて、それぞれに扉を設けていましたが、実際は上段があまり活用されていませんでした。
施錠管理の負担によるところが大きいと推察されます。グループホームでは議論の結果、上段と中段は扉を分けない仕様に変更しました。
また、みわ翠光園の仕様を引き継ぎ、両開き戸を採用する場合は片方の扉を固定することなく、片方の扉の施解錠で両方の扉を制御する金物を採用するなどして、使い勝手を向上しています。
グループホームのコップ収納棚/上段・中段に分かれていた扉をひとまとめにし施解錠の負担を減らした。収納内にはシェーバー充電用コンセントを備え付け、下段にはコップ洗浄のための食洗器を組み込んでいる。