作品紹介Works

障害者

障害者支援施設 あまだ翠光園 改修

(1)はじめに

社会福祉法人福知山学園 あまだ翠光園は、京都府福知山市三和町にある障害者支援施設です。平成5年に開設され20年以上の歴史を刻んできました。事業内容としては、生活介護事業・施設入所支援事業(定員80名)、短期入所事業(定員3名)を行われています。施設の特徴としては、障害の重い方や自閉症・身体障害を併せもつ方が多く入所されています。特に自閉症、強度行動障害の方に対しては、生活環境の構造化等を支援の基本に特別支援が行われています。

(2)これまでの改修計画及び改修工事について

平成21年以降改修計画及び改修工事を行ってきました。

1)本館食堂等 改修工事(計画のみ未施工)

法人理念を元に改修方針を決定し現状の問題点を上げ、食堂、エントランス、指導員室の改修計画を行いました。ここで行われた議論は施設全体のあり方を考えることとなりました。将来の改修に際し大いに活用していきたいと考えております。

図1 プレゼン資料1 図2 プレゼン資料2

2)空調改修工事

建物全体の空調設備の老朽化による機器の入れ替え工事。一般社団法人環境共創イニシアチブによる建築物節電改修支援事業費補助金を受ける。全体工事費約2,400万円に対し約500万円の補助金を受けて工事を行いました。

3)トイレ改修工事

利用者及びご家族等の来園者が使われるトイレの改修を行いました。

写真1 改修前トイレ 写真2 改修後トイレ

4)鍵・建具改修工事

施設全体の鍵の取り替えと、利用者居室建具の改修工事を行いました。

写真3 改修前居室建 写真4 改修後居室建

(3)計画及び改修工事において特に留意したこと

1)本館食堂等 改修工事 

1.食堂の待機場所の検討 食堂の待機場所の問題点

食堂の待機場所については上げられた問題点は下記の内容となります。

  • 待機場所となる手洗い前の濡れた床に利用者が座り込み不衛生。
  • 待機場所で待機する利用者と食堂に入ろうとする利用者で混雑し危険。
  • 夜間行われている喫茶スペースの充実。
  • ご家族が来られた時に料理を温めるための場所がない。

図3 現状食堂平面図

2.検討結果

検討の結果、上記の問題点を解決ため下記の具体的対策を行う事となりました。

  • 待機場所を手洗い前と別に設ける。
  • 食堂に入るルートを2方向に増やす。
  • 前室を設け、扉を2重化しスタッフが食堂に入る利用者の数及び時間をコントロールできるようにした。
  • 待機場所は喫茶スペースとしても使えるように設置。
  • 喫茶スペースにレンジを設置。
図4 検討結果食堂平面図

3.検討内容

検討結果に至るまでにさまざまな案を検討しました。第3回のプランは現状の寝室(1)を一ヵ所待合スペースにする案です。第5回は検討結果に近い案ですが、待機兼喫茶スペースの形状が異なっています。第6回は手洗いを待機兼喫茶スペースの前にもう一つ作るという案です。最終的に、利用者の安全を確保することを目的としながら、待機スペースに求める機能や雰囲気、既に行われている喫茶スペースとして充実などを踏まえ計画内容が検討結果の案に至りました。

図5 検討段階の食堂待合兼喫茶スペース平面図

2)本館食堂等 改修工事 個室ブース、間仕切りが必要な利用者の食事環境

あまだ翠光園には自閉症でこだわりを強く持たれた方が多くおられます。その利用者の中でも特に食事の際問題となる、突発的な行動、盗食、水へのこだわりなどを持たれた利用者がおられます。今回の計画では、個室ブース・間仕切りが必要だと判断される4名の利用者の特徴を踏まえ具体的にどのような個室ブース・間仕切りとするかを検討しました。(表1参照)

表1個室ブース・間仕切りの検討結果

特徴

個室ブース・間仕切り検討結果

Aさん

・突発的行動をとる。
・個別ブースを乗り越える。
・現在小窓があるが視界を遮る必要がある。

→4周壁で囲われた扉付き個別ブースが必要。
→高い壁が必要。間仕切りH2,000とする。
→小窓取り止め。

Bさん

・人との接触が苦手。
・人に見られる事を非常に気にする。
・人の目線が苦手である。
・手元は見えなくても良いが、スタッフからみて食事の雰囲気が分かるようにしたい。

→個別ブースが必要。
→コーナーに座ってもらう。
→視線を遮る間仕切りを設ける。
→間仕切りH1,200とする。

Cさん

・水に非常な執着をもっており行動を抑制していなければ厨房までヤカンを取りに行く。盗食も行う。
・閉じた空間に入ると自傷行為を行う事がある。みんなが見える方が良い。
・ブースと言うより自分の場所が分かるようにする形で良い。間仕切りはしるしとして考えている。

→テーブル付き椅子とする。

→テーブル前はオープンとする。

→サイドに間仕切りを設けH1,200程度とする。

Dさん

・他者へのアピールが強い。周りの利用者へ影響がでる。現在カーテンの間仕切りを利用。
・見たい欲求が強い。見えすぎると不安定になる。覗いて見える程度の間仕切りが良い。完全に囲うと逆に出ようとする。
・完全な壁はストレスとなる。

→個別ブースが必要。

→4周を壁とせず、1方は空け3方を囲う。

→間仕切りH2,000、上部はオープンとする。

上記の4名以外で他者の視線を気にされる方については、視線を遮る衝立を設けその奥に座ってもらう事としました。 全体の配置としては、食事介助が必要な方と食事介助が必要でない見守りのみの方を分けることでスタッフの効率化を図ることとなりました。
図6 検討結果食堂平面図

図7 検討結果個別ブース・間仕切展開図

3)トイレ改修工事の失便処理装置の工夫

1.失便処理装置の改良

 あまだ翠光園の1階のトレイと浴室は弊社で既に改修工事が行われています。その時すでに失便処理装置を設置しています。今回のトイレ改修は2階部分の改修工事となるのですが、以前設置した失便処理装置そのままでは既存の2階の床の高さ等の制限により設置できないこともあり、いくつかの改良を加え設置することになりました。

2.失便処理装置の改良点

  • 既存改修する面積を減らすため、出来るだけ装置の平らな面を減らした。
  • 汚物を確実に流すために、フラッシュバルブの水が効率よく流れるように失便処理装置面をおわん型に変更した。
  • 既存改修工事のため既存防水との取り合いを考慮し失便処理装置を2重構造にした。
写真5 改修後失便処理装置 写真6 改修後失便処理装置内部

3.失便処理装置の水流の実験による確認

汚物を確実に流すために、フラッシュバルブの水が効率よく流れるように失便処理装置面をおわん型に変更しました。実際におわん型の形状で汚物(御みそで代用)が流れるかを実寸大の装置を作成し流水実験を行い確認しました。

写真7 流水実験(流水前) 写真8 流水実験(流水中) 写真9 流水実験(流水後)


4)トイレ改修工事の照明の工夫

1.防水型照明の採用

 現在利用者の中に水にこだわりを持たれている利用者が入居されています。その利用者はペットボトルに水を入れトイレの中でその水をまき散らかします。その水は照明にかかっていたために漏電の危険性がありました。
今回のトイレの改修工事で、この水対策としてステンレス製の枠にアクリルパネルではめられた防水型の照明を採用することとなりました。

写真10 改修前照明 写真11 改修後防水型照明


5)鍵・建具改修工事の建具の工夫

1.建具の改良

社会福祉法人福知山学園は、私が担当しておりますあまだ翠光園以外に多数の障害者・児の施設を運営されています。
その中で、むとべ翠光園が新築施設として弊社の設計監理で竣工しています。
むとべ翠光園でも建具の強度等の検討を重ねられており、建具の改修はその検討結果を踏まえたところからのスタートとなりました。

今回のあまだ翠光園は既存改修工事となり、運営を行いながらの工事のため工事内容に制限がありました。施設の利用者の特性もことなることから、いくつかの改良を加え建具改修を行うこととなりました。

図8 建具検討資料

写真12 改修後の建具

2.改修前建具の状況

写真13~18は、改修前の建具の状況写真です。建具の鍵部分や吊元の破損等がひどいことが分かります。

写真13 鍵部分 写真14 鍵受け部分 写真15 建具吊元部分

写真16 蹴破られた建具 写真17 建具補修部分 写真18 建具振れ止め

3.建具設計の改良点

今回の建具設計の改良点は下記のものとなります。

表2 個室ブース・間仕切りの検討結果

問題点

具体的対応策

参考写真

1

利用者の引き戸の指詰め。

ソフトクローズ機能付きのレールを採用。

写真19

2

利用者が建具を叩いたいり蹴ったりすることで扉が破損する。

建具の強度を増すため、建具仕上げの下地材に合板を採用。合わせて、建具内部にハニカムペーパーコアを採用。

写真20

3

仮に建具が外れた場合の事故への対応

不燃表面材に去年発売された新製品のフレアテクト化粧板を採用し建具を軽量化。

写真20

4

利用者が建具に体当たりすることで建具が外れる。

建具の面方向への強度を増すために、建具下の振れ止めの数を1か所から3ヶ所に増やした。

5

引き戸をいきよいよく開閉することが繰り返され建具の吊元が緩んでくる。

建具の吊元の強度を増すため、ステンレス板による補強を行った。

写真21
写真22

6

利用者が引き戸の鍵を閉めた状態で何度も開けようとすることで鍵及び鍵受け部分が破損する。

建具の鍵及び鍵受部分の強度を増すために、ステンレス板による補強を行った。

写真23
写真24

写真19 ソフトクローズ 写真20 フレアテクトと合板  写真21 ステンレス補強建具 

4.建具工場現地確認

建具の強度を法人さんに確認してもらうため、合板の厚み及び補強の入れ方の異なる建具のサンプルを作成し強度を確認してもらいました。

写真25 建具強度確認  写真26 建具サンプル 

5.建具工場現地確認

建具の制作過程を確認するため、建具工業の現地確認も行いました。

写真27 建具工場 写真2 建具圧着過程
担当者
竹之内啓孝