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病院 / 精神科

田辺病院

はじめに

 田辺病院は昭和43年に建てられた市街化調整区域に建つベッド数291床の精神科病院です。建設された建物に増築を繰り返しつつ、地域の皆様へのより良い療養環境の提供に努めてきました。しかし、建物の老朽化、耐震基準の見直し、医療法の改正に伴う施設基準の見直し等課題が顕在化してきたことから、既存棟を一部解体し、病院を建替えする計画となりました。

市街化調整区域での建替え計画

市街化調整区域とは
 
都市計画法第7条3項に「市街化調整区域は、市街化を抑制すべき区域とする」と定義されています。このことにより特定の定められた用途以外の建物は原則として建てることができません。「病院」は、平成19年11月30日に施行された都市計画法の改正以前は、市街化調整区域内でも新しい敷地に建てることができましたが、改正以後は区域内での病院新築は非常に困難となりました。

市街化調整区域で病院を建て替えるには
 
1つのポイントは、既得権を使い、既に今病院がある敷地で建て替えを行うことになります。
 
2つのポイントは、開発行為を行わず開発非該当にすると言う事です。具体的には、敷地の買い足しなど土地の区画を変更しない。敷地の盛土、切土、擁壁を含む土地の形を変更しない。と言うことが重要となります。

土地の高低差を開発行為とならないようにどのように処理するか(図1)
 
単に計画上必要だからと言って敷地の盛土、切土、擁壁を作ってはいけません。敷地の高低差を触る場合は、建物と擁壁が一体ととなった建築擁壁とするか、既存建物が土を受けていたため同じ場所に管理行為として擁壁を作る必要があります。このような手法を駆使して新しい建物を計画し開発行為にあたらないようにする必要があります。

図1 土地の高低差を開発行為とならないように処理する方法

市街化調整区域で病院を建て替える場合は患者さんが居ながらの改修となる

 既得権を使い、既に今病院がある敷地で建て替えを行うことになるため、必然的に患者さんが居ながらの改修となります。

1.建築基準法(図2)
 
工事中であっても排煙、採光(非常用照明)、避難経路など避難に関する基準は常にクリアする必要がある。具体的な対応方法としは、排煙、採光については、建物に一部吹抜けを作り基準をクリアするように対応。工程上避難経路がふさがる期間は、別ルートで逃げることが出来るように既存建物のバルコニーなどを使用し避難経路を確保する。

2.消防法(図3)
 スプリンクラーなどの消防設備は、既存建物にその設備がない場合、原則遡及適応する必要がある。具体的な対応方法としは、増築建物は、既存建物と消防法上別棟になるように建てる

図2 工事中であっても建築基準法をクリアする方法

図3 既存建物が消防法の遡及適応を受けないように消防法上別棟にする

3.医療法(図4)
 工事中であっても医療法上の基準をクリアする必要がある。病室、食堂、機能訓練室等の面積基準、患者さんの移動、スタッフ動線、必要施設の設置を工事中常に満たすことが必要となる。具体的な対応方法としは、病室、食堂、機能訓練室等の面積基準、患者さんの移動、スタッフ動線、必要施設の設置を工事中常に満たすことが必要となる。具体的な対応方法としは、患者さんの移動は行わない。※X線撮影はポータブルX線にて対応。機能訓練室を分散して配置。スタッフ動線は、仮設出入口及び仮設渡り廊下棟を作ることで確保。

図4 工事中であっても医療法上の基準をクリアする必要がある

既存建物を利用し続ける場合のポイント

 老朽化した建物は壊して新しく建てることになりますが、比較的新しい利用できる建物まで壊す必要がありません。利用できる建物は利用すべきです。ただし、既存建物を使い続ける時のポイントがあります。

1.建築基準法上の耐震性(図5)
 建物の耐震性は、昭和56年を境に大きく分かれる。耐震改修を行って古い建物を使い続けるか、取り壊すかの判断が必要となる。具体的な対応方法としは、昭和56年以前の旧耐震は取り壊し、昭和56年以降に造られた新耐震の建物は、現行法規の構造計算を行い使用。

2.医療法上の構造(図6)
 病室、食堂、機能訓練室等の面積基準、患者さんの移動、スタッフ動線、必要施設の設置を工事中常に満たすことが必要となる。具体的な対応方法としは、患者さんの移動は行わない。※X線撮影はポータブルX線にて対応。機能訓練室を分散して配置。スタッフ動線は、仮設出入口及び仮設渡り廊下棟を作ることで確保。

図5 昭和56年以前の旧耐震は取り壊し

図6 工事中であっても医療法上の構造基準をクリアする必要がある

3.医療法上の食事提供(図7)
 配食導線を常に確保し、衛生面の配慮が必要となる。具体的な対応方法としは、配食動線は、仮設出入口及び仮設渡り廊下棟を作ることで確保。衛星面を配慮し食事をバッカン等に入れ車で移動。仮設配膳室にて配膳を行う。

5期にわたる建替計画

 下記のような順序で工事を進めることで病院全体の建替計画を実現しました。
 既存建物を解体し、そこに新しい建物を建て移動する。移動により空いた建物をさらに解体し、そこにまた新しい建物を建て移動する。このように解体し建物を建てることを大きく3回繰り返し、全体が完成します。工事途中ではプレハブの利用など常に病院の機能を守りながら同じ敷地内で工事を進めていくために打合せを重ね、計画を進めました。

図7 医療法上の食事提供については配食動線を常に確保し、衛生面の配慮が必要

建築主
医療法人 芳松会
所在地
京都府京田辺市
用途
病院(療養病床109床、精神科病床182床)
構造
鉄骨造 一部鉄筋コンクリート造
階数
地下1階、地上6階
敷地面積
11,017.45㎡(内 既存建物:1,998.26㎡)
竣工年月
平成27年9月
担当者
砂山憲一 , 竹之内啓孝