作品紹介Works
障害者
障害者支援施設 ゆめふる成田
田畑を見下ろす小高い丘にひろがるゆめふる成田。北側の高台には市の運動公園がある。建物手前から冬棟(増築)、中央に生活介護棟(ゆめテラス:改修)・支援棟・秋棟。赤い建物が春棟、その奥に夏棟。 細い曲がりくねった道を進むと田んぼの向こうに見えてくる支援棟
千葉県成田市にある自閉症の方の生活施設「しもふさ学園」は1988年の開園から30年あまりを経ます。子供のころから生活してきた方たちも大人になり、人生の後半を歩むにあたって、住環境の軌道修正が必要となりました。 彼らにとってふさわしい住まいとは? 安心して暮らすことの出来る場所とは? 長年にわたり彼らと共に過ごしてきた菜の花会の豊富な経験と知識をもとに、なんども意見を交わし考え抜いて完成したのが「ゆめふる成田」です。 田園と山に囲まれた自然豊かで広大な敷地に、すべて平屋の4つの生活棟と支援員のための棟が建設されました。→ゆめふる成田支援棟
4棟8ユニットに分けた少人数の生活空間
47名の入所(短期含む)に対し、建物は11~12名の4棟に分かれています。 またさらに東西2つのユニットにわけて生活単位を小さくすることで、環境に折り合いをつけることが苦手な自閉症の方々がすこしでも自分の世界を守ることができるのではないかと考えています。 1ユニットの定員は6人ずつです。きっとそれでもしんどい方もいらっしゃるでしょうし、もっと大人数でも穏やかに暮らせる方もいらっしゃるでしょう。いろいろなバリエーションをつくることも考えられますが、なにぶん部屋数は47室もあります。支援配置が複雑になりすぎるのも好ましくないため、ユニットの定員はひとつに定めました。そういったなかで、支援量・人間関係・障害特性をじっ…と睨んでバランスをとっています。 4つの棟はそれぞれ「春」「夏」「秋」「冬」と季節の名前がついています。
春棟:女性(西)、男性(東)が暮らす個室のバリエーションに富んだ棟
春棟内部:木材を使用したやさしい色目の廊下
夏棟:特別支援が必要な方々が安心して暮らすことのできる守られた場所
夏棟テーブルコーナー:北側の柔らかな光が差し込む。仲間や支援員とゆったりした時間を共有する
秋棟:東西6名ずつ。主に身体的な介助・支援を要する方々が暮らす
食堂:リビングと一体的になったのびのびとした場所
冬棟:マイペースに自室で思い思いの時間を過ごすことを想定した棟
冬棟廊下:ひと部屋ごとに雁行が個室の独立性を担保している
ひとり一人に合わせた部屋づくり「スタイル40」
人によって安心できる環境は違います。ここでは、40人ひとりひとりの能力、楽しみ、こだわりなどにできるだけ付き合った部屋づくりを行いました。菜の花会ではこの姿勢を「スタイル40」と呼んでいます。そのひとが安心できる部屋はどんなだろうと、試行錯誤しながら一部屋ずつ慎重に仕様を決めていきました。その選択項目は、天井高さや内装・窓の種類・設備・家具など40項目以上にのぼります。 個室にバリエーションを付けようとするとマンションのようにあらかじめ何タイプかに規定し、そこに入居する方をあてがう方法が一般的かと思います。入居する方が決まっていないことが多く、また汎用性を考えると当然なことでしょう。しかし、ゆめふる成田では人が建物に合わすのではなく、建物が人に合わすという思い切った方法をとりました。その結果、カラオケルーム付きや専用玄関付きといった、とても特徴のあるお部屋が多くできました。同時に、ごくごく普通のシンプルなお部屋もたくさんあります。
外部から専用のアプローチのある個室もある。他の入居者との接触を最小限にとどめている
いずれもくつろぐ場所・寝る場所・課題を行う場所がゆとりをもって確保できることを前提としています。そうすると施設基準を大幅に超える14畳という大きさになりました。ゆったりとしたスペースにはご家族が泊ることができるだけの余裕もあります。家具を置くことができないお部屋でも固定のスクリーンを木製にして、部屋に温かみを添えています。
夏棟 西-2:固定されたベンチは窓辺で佇むために設けられている
秋棟 西-4:ふらつきによる転倒対策として柔らかい仕上材を採用
春棟 西-6:おしゃれが好きな女性の部屋。クローゼット付きの和室がある
冬棟 西-5:畳の小上がりのある部屋
- 建築主
- 社会福祉法人 菜の花会
- 所在地
- 千葉県成田市
- 用途
- 障害者支援施設 定員40名+短期入所7名
- 構造
- 木造
- 階数
- 1階
- 敷地面積
- 25,402㎡
- 建築面積
- 2,355㎡
- 延床面積
- 2,279㎡
- 竣工年月
- 2023年8月
- 担当者
- 河井美希 , 川﨑優里