作品紹介Works

障害者

長岡ホーム オルオル/オハナ

オハナ(軽度棟:左)とオルオル(重度棟:右)

”心地よさ”と”思いやり”

2022年夏、京都府北部丹後地方を基盤に障害のある方の生活を支え続けている、よさのうみ福祉会から新しいホーム設計の連絡をいただきました。
たいへんありがたいことに、与謝野地域の「菜の花ホーム」、宮津市の「グループホームすみれ」につづく3件目となるご依頼でした。今回の京丹後地域で、法人の管轄するすべてのエリアにひとつずつホームを建てることになります。

重度知的障害の方を対象とした重度棟と、軽度~中度の知的障害のある方の軽度棟が道に妻側を見せて横に並んでいます。それぞれのホームの名称はハワイ語で心地よさを意味する「オルオル」と相手に対する思いやりの気持ちをあらわす「オハナ」と言います。
これまで設計してきたグループホームでずっと大切にしてきたコンセプトがあります。それは、“ほっと”するホーム。実はこれ、はじめての障害者のグループホーム(菜の花ホーム)を設計した時に、当時担当であった法人の方から告げられたホームに対するの思いでした。このことは、障害のある方への建築に限らず、それ以降の私の設計そのもののテーマにもなりました。

-心地よさと思いやり!

ほっとするホームをかたちにするためには欠かすことのできないこれらの概念が、このたびの新しいホームの名称となったのは、けして偶然ではなかったと思います。

既存のホーム(右)のむかいに建つオルオルとオハナ

住み慣れた地域で新しい生活の場所を

よさのうみ福祉会では2013年から「暮らしの検討委員会」を発足し、京丹後地域で求められるホームの検討を重ねてきました。入居を切望されている方がたくさんいらっしゃるなか、実現への課題をクリアするために月日が過ぎていくあいだに、遠くへ行かれた方や施設へ移られた方もいらっしゃったそうです。
そしてとうとう、さまざまな条件をクリアできる建設場所がみつかりました。敷地はなんと現在すでに京丹後地域にあるホーム「長岡第1ホーム」と「長岡第2ホーム」の道を挟んだ目の前です。
そしてアンケート調査によりホームのイメージが徐々に見えてきました。
障害の重い利用者がなるべく衝突なく暮らすことのできるホーム(オルオル:重度棟)と、既存にあるホームを利用している軽度~中度障害の方がプライバシーが保たれたなかで気の合う仲間との生活するホーム(オハナ:軽度棟)の2棟をつくることになったのです。

打合せと設計は、入居される方をある程度想定したうえで行われました。最終的にはメンバーは当初と大きく変わりましたが、重度棟と軽度棟に希望された暮らしのイメージそのものは変わることなく建設されました。

オハナ(手前)とオルオル(奥)の玄関
重度棟のオルオルには飛び出し防止用の門扉がある

オハナ(軽度棟)の駐輪場からオルオルの個室を臨む

ホームの特徴

いずれも定員は7名。他者との距離感やかかわり方に配慮することは重度棟と軽度棟にも共通しています。そのため7名の個室ゾーンを5名と2名の東西2つに分けて、状況に応じた部屋の選択をしていただくようにしました。各個室は南側もしくは眺望のひらけた西側に面しており、隣地側に面したお部屋の前はできるだけ距離をとるようにしました。
また、大きな声や大音量のテレビ音への対応を考慮して防音性を高めた個室を1室ずつ備えています。共に暮らす仲間への配慮というだけではなく、隣接する民家に対して迷惑とならないような位置に部屋を配置し、2重窓を採用しました。

オルオル(上)とオハナ(下)。オレンジ色の部屋は防音性を高めた
眺望と近隣との関係を考慮して部屋の配置が決めている

西側には田畑が広がる

オハナ(軽度棟)の物干し場。隣地民家の窓位置を考慮した

重度棟 「オルオル」

重度棟では自閉症の方の入居を想定しているため、他者との衝突をなるべく避けることができるようなゆとりが必要でした。
共同の洗面まわりはゆったりと十分な空間をとり、3つのトイレは分散しています。東西の2つあるリビングのうち、西側の大きな方では全員で食事をとることを前提にしていますが、東側の2名の個室の前にある小さなリビングは、1名ずつの利用に分けることができるような形と工夫(入口や窓)をしています。
また重度知的障害に加えて将来の高齢化にも備えて、トイレは自走式リフトの使用が可能な広さを確保し、介助を前提とした浴室としています。
スタッフは主に重度棟の事務室を拠点にしつつ、2棟間で行き来をします。

重度棟の洗面ホール。ゆったりと距離をとっている

小さいほうのリビング。簡単な改修で2つに区切ることをも想定している

重度棟の個室には備え付けの家具と付け長押がある。窓下の高さは70cm

駐輪場より軽度棟玄関をみる

軽度棟 「オハナ」

ひとり暮らしにあこがれつつも、孤独になりたいわけではありません。職員や仲間が近くにいることで得られる安心感と共に、ひとりでいることも守られる環境が求められます。
リビングでは仲間とテレビ鑑賞をしながら過ごし、個室では気ままなひとり時間を楽しみます。 洗面を共同とするかどうかで議論がありましたが、トイレ・お風呂は難しくとも、せめて自分の姿に一人で向き合うことのできるようにしようと個室内に設けることにしました。
料理は軽度棟のキッチンで作られ、中庭を横断して重度棟へと運びます。

リビング。ここでは仲間やスタッフと共に過ごす

防音個室(左)とトイレ入口

2つの棟に暮らす人々同士が積極的な交流をすることは想定はしていません。しかしながら、向かいあうそれそれのリビングから一番近い“お隣さん”の気配を感じるところから、地域での暮らしが始まります。

重度棟リビングから軽度棟へつながる

オルオルの廊下。隣地の庭を借景にした

洗面のあるオハナの個室

オハナのリビングには個室前の廊下に向けて窓を設けた

街道沿いに昔からの家が立ち並んでいる
杉板の外壁は経年により灰色に風化し、周辺の家々に溶け込んでいくだろう

街道側夕景
街灯の少ない通りに明かりをともす

建築主
社会福祉法人 よさのうみ福祉会
所在地
京都府京丹後市
用途
障害者グループホーム
構造
木造
階数
平屋
敷地面積
1070㎡
建築面積
550㎡
延床面積
オルオル(重度棟):280㎡
オハナ(軽度棟):250㎡
竣工年月
2024年3月
担当者
河井美希