作品紹介Works

障害者

社会福祉法人ひがし福祉会 旧石けん工場改修工事

旧石けん工場の一部に移転したボカシ工場。もともと倉庫だった場所を改修した。



■大きな計画の第一歩

 岐阜県中津川市の障害者支援施設の改修です。ここでは、敷地内に複数ある老朽化した建物を数年かけて順次更新する構想があり、この改修はその第一歩として位置づけられるものでした。
 敷地内の建物は住む場所と働く場所の2つに大きく分かれ、入居者(仲間と呼ばれています)が、朝、働きに出かけて夜は家に帰ってくるという生活のリズムをとても大切にされています。改修前の旧石けん工場は、半分は仕事場として使用されていましたが、もう半分は倉庫として使われており、うまく活用できていませんでした。今回の改修計画は老朽化対策で終わらせずに、仲間にとってよりよい環境とすることを目指していました。旧石けん工場は、なないろ工場と名前を変え地域と協力してものづくりに取り組めるようにします。また、倉庫だったスペースは物品を整理し、もうひとつの仕事場であるボカシ工場をこの建物に移転することとなりました(ボカシとは有機物を微生物の力で発酵・分解させてつくる肥料のことです)。

改修前の平面図。建物の半分が倉庫として使われ、うまく活用されていなかった。

改修後の平面図。旧石けん工場はなないろ工場に名称を変え石けん以外のものづくりにも取組む。
倉庫はボカシ工場として整備し直し、男女別WCやシャワー室も新設した。シャワー室は失禁時の使用を想定している。




 なないろ工場とボカシ工場、2つの作業所の計画にあたり、強く意識されたことは仲間が主体性をもって気持ちよく働ける空間づくりでした。



■ボカシ工場:物の管理に焦点をあて広々とした作業所に。

 ボカシ工場では「物の管理」が焦点となりました。仲間たちが仕事に取り組むにあたって、どこに目的の道具があるか、また使った道具をどこに戻すのかが明確にわかる仕組みが必要でした。そこで、「形跡管理収納棚」を計画しています。形跡管理は、誰が作業を行なっても、決められた位置に、決められた道具を、決められた量だけ戻せるようにする管理方法です。収納棚には、道具の写真や名称を表示しながら、道具と同じ形で型抜きしたスポンジを敷いていきます。片付ける場所や数量が明確になることで、仲間や職員の道具を探す時間や労力がなくなります。この管理方法は、一般の工場でも採用しているところがありますが、知的障害者の作業所こそ取り入れるべきだという思いで、壁の一面に「形跡管理収納棚」を計画・設置しています。また、ボカシの製造と梱包の工程で床材の色を変えて貼り分け、仲間の作業場所が明確になるような工夫も行なっています。
 天井は建物の屋根に沿った勾配天井とすることで、移転前と比べると広々とした空間になりました。窓からは木曽川沿いの緑がよく見え、自然に囲まれた環境であることが感じられます。

ボカシ工場の出入口には庇をつけ、開閉しやすいようにスチール製から
アルミ製に変更した。手づくりのサインは仲間たちでつくったもの。

奥が形跡管理収納棚。棚には片付けやすいように道具の写真等が貼られる。中仕切の縦横の板はすべて位置の変更・取り外しができる。

なないろ工場とつながる職員用の扉は、仲間が気にならないように壁と同材仕上げ。損傷しやすい巾木部分はビス止めとし容易に交換できるようにした。スイッチプレートは耐久性があるステンレス製を選定。

ボカシの天日干しの工程には屋外スペースを活用する。
以前は離れた駐車場まで運んで行なっていた。

ボカシ工場が入る前の倉庫。今回の改修を機に物品の多くが整理された。

移転前のボカシ工場はプレハブだった。
商品梱包用のベルトコンベアの前に10人程度が並んで作業する。



■なないろ工場:見守りを中心とした明快な構成に。

 なないろ工場の計画でも、できるだけ仲間が自立して動ける空間に変える目的がありました。そのために、まず事務室をエリア中央に配置し、仲間の見守りやすさに重心を置いた計画とし、事務室の周囲を取り囲むように準備エリア、学習室、作業室の3つのスペースを配置しています。 準備エリアでは、出勤した仲間が玄関から建物内に入った後、スムーズに更衣・トイレを済ませ事務室のタイムカードを押してもらえるように、この動線に沿ってスペースを計画しています。次に学習室と作業室ですが、勤務中の仲間はこの2つのスペースを行き来して過ごします。学習室では、仲間たちがつくる製品――なないろ工場では地域の業者と協力して石けん以外に様々な製品をつくります――について、映像等を見ながら、自分たちが取り組むことになる製品の製造工程や、その製品が実際どのように使われるかなどを学びます。そのほか外部の事業所とZOOM等を使用しオンライン上で繋がってコミュニケーションをとったりすることも想定されています。
 また、作業室は、実際に製品づくりを集中して行うスペースになります。石けん以外の様々な製品づくりに対応できるように、製品倉庫スペースと一体の空間としてつくりかえ柔軟性を高めた計画としています。
 改修前は空間的な制約から、玄関ホールや製品倉庫に更衣ロッカーが置かれ、職員・事務スペースも部屋をまたいで配置されるなど、行為と空間の1:1対応が困難な状況にあったのですが、今回の改修を機に平面計画を見直し整理することができました。

新設した学習室(引越し中)。仲間が選定したカラフルなクロスが事務室。
右手奥が作業室。正面奥は玄関・準備エリア。

新設した学習室(引越し中)。正面の壁にディスプレイが設置される。

建築主
社会福祉法人ひがし福祉会
所在地
岐阜県中津川市
用途
障害者支援施設
構造
鉄骨造
階数
平屋建
敷地面積
約12,000㎡
建築面積
約400㎡
延床面積
約330㎡
竣工年月
2024年3月
担当者
岩﨑直子 , 山本晋輔