作品紹介Works

障害者

社会福祉法人よさのうみ福祉会 いきいき浴室改修

既存浴室の問題点

京都府の北部、与謝野町に位置する夢織りの郷には入所施設の「いきいき」と、通所施設の「つむぎ」があります。
1997年の竣工当初は、30名の入所エリアを3つのユニットに分け、各ユニット内の食堂(ホール)を活用したユニットケアが想定されていました。現在は入所者の状況の変化によりユニットケアが難しくなっており、各ユニットにある食堂(ホール)があまり活用されていない状況です。
既存の浴室は男女どちらも銭湯のようなつくりの一般浴で、女性用の浴室にのみ浴槽に設置するタイプのリフトがあります。

建物の竣工後27年が経ち、入居者の平均年齢が52才と高齢化・重度化が進んでいることから、既存の浴室では対応が難しい方が増えていました。
湯船に入ると転倒などの危険があるためにシャワーのみとしている方や、車椅子から浴槽リフトへの移乗の際に自力で手すりに掴まって立位を取ることが不安定になってきている方などがおり、入居者の身体機能の低下に対応する設備が整っていないことが課題でした。
こちらの施設では毎日入浴をしていることもあり、利用者の方に安全な状態で入浴してもらいたい、その上で職員負担も軽減できれば良い、との考えで計画はスタートしました。

改修でコスト削減

既存の浴室で対応できない方は、30名中の数名で、残りの方は一般浴でも入浴が可能です。
新たに機械浴槽を設置する場所として、男子浴室を改修して設置/中庭に浴室を増築/ホールを改修して設置などの案がありました。その中で、男女関係なく使用でき、なるべく工事費を抑えることのできるホール改修案を採用することになり、3ヶ所のホールの中でも一番使用頻度の低い第3棟のホールを機械浴室・脱衣室に改修する計画となりました。

既存のホールという限られたスペースの中で、車椅子や床走行リフトの使用も考慮して浴室・脱衣室の大きさを検討しました。入浴前後に行う支援を考慮すると浴室よりも脱衣室に広さが必要なため、コンパクトな2029サイズの浴室とし、脱衣室を広めに確保しています。
既存改修ですので、既存の地中梁の上を浴室の排水管が施工でき、浴室と脱衣室の床レベルに差が無いつくりとできるよう、ユニットバスは床下高さが低くても設置可能な積水ホームテクノ製のものを採用しました。

改修前平面図

改修後平面図

機械浴槽の選定

機械浴槽をどの機種にするかについては、利用する入居者の方の5年後・10年後の身体状況を想定し、どの程度の機械浴槽が必要かについて検討を行いました。
脚を曲げられない方の利用が想定されており、仰臥位浴ではないものから選択することになりました。当初はチェアタイプも候補でしたが、浴室が大きく必要な分脱衣室が小さくなってしまうことから、浴室広さが小さくても設置できるADL浴(リフト浴)の中から選択することになりました。
その上で、他法人の施設への見学やデモ機での試乗を経て、酒井医療のユニバスの採用となりました。
「なるべく自分の力を使って日常生活を送ってもらいたい」との思いから体の状態に合わせた使い方が選べる点と、幅広い身体状況に対応が可能な点、入居者で体の大きい方がいるのですが、その方でも入浴が可能な点が採用のポイントとなりました。

ユニバス(酒井医療)

脱衣室と浴室の両方に天井走行リフトを設置

脱衣室・浴室にそれぞれ天井走行リフト(XY走行型)を設置しています。
脱衣室は移乗が多いため天井走行リフトを設置することが多いのですが、浴室内については移乗に問題が無ければ設置しないケースがほとんどです。今回採用した機械浴(ユニバス)の場合、専用車椅子をドッキングすることで浴槽への移乗が可能です。
それでも浴室内に天井走行リフトを設置したのは、浴室の洗い場のスペースが狭く、洗体時にユニバス専用車椅子の他に洗体用ストレッチャーを浴室内に置けない点、ユニバス専用車椅子をフラットにした場合でも、その上で体勢を変えることが難しい点から、臀部をリフトで吊り上げて洗うことを想定したためです。

当初は、脱衣室から浴室まで乗り換えなしでレール式リフトで移動したいとの意見もありました。その場合、天井の低い浴室に合わせてリフトレールの高さが決めるため、脱衣室の低い位置にレールが走ることや、レール式リフトとする場合は吊り上げる際にレールの下に移動する必要がある点等がデメリットでした。また、将来的に機械浴室と脱衣室それぞれでリフトを使用する場合を考慮しても、別々でリフトを設けておく方が良いとの判断になりました。
今回採用した規格品のユニットバスでは浴室の天井高が低く、一方でユニバス専用車椅子の座面が高いため、体の大きい方の場合は座面より高い位置に吊り上げることが難しい可能性がありました。そのため、リフトで吊り上げることができるようにリフトメーカーの方にスリングの種類を含め調整していただきました。

天井走行リフト(脱衣室)

天井走行リフト(浴室)

必要なものを備え、無駄の無い脱衣室

入浴する際に、脱衣後にトイレを利用することを想定し、脱衣室内に新たにトイレを設置することになりました。 脱衣室内の便器には、FUNレストテーブル(前傾姿勢支持テーブル型手すり)を設置し、壁面へのL型手すりの設置も合わせて計画しました。L型手すりについては、実際に使用開始後に必要な長さを検討し、後付けで設置予定です。
また、着脱衣時に立位保持用に使用する壁手すりについては、当面は利用する方がいない想定ですので、下地のみ設置し、必要な場合に追加で手すりを設置できるようにしています。

手洗い・汚物流しについては、汚れた洗濯物をどの程度脱衣室内で洗うかにより、汚物流し・マルチシンク・手洗器の組合せが決まります。今回はコンパクトな汚物流しで手洗いを兼ねることで、脱衣室のスペースをなるべく広くとることを優先しています。

浴室まわりで天井走行リフトを設置する場合、各個人の濡れたスリングを使用後に干すスペースが必要です。今回は浴室内に天井走行リフトを設置したために物干し竿が設置できず、代わりに脱衣室の外部建具の上の壁に収納式の物干しを設置しました。
着替えに使用する脱衣台については、車椅子や床走行リフトの取り回しで広さが必要になることを考慮して収納式の多目的シートを設置しています。

機械浴室の利用は1人ずつの入替で行う予定ですが、将来的に入替時に次の利用者が脱衣室内で待機する可能性を考慮し、また、扉の開け閉めで廊下から室内が見えないように内部をカーテンで仕切っています。
脱衣室の床材は、クッション性・車輪の走行性・清掃性・防滑性を考慮し、アンダーレイシートの上にトイレ用床材を重ねる仕様になりました。
入浴後、ユニバスの車椅子が脱衣室にも入るため、樹脂製の足ふきマットを設置し、なるべく床が濡れないようにしています。
脱衣室内には個人の収納スペースや掃除道具入れ等の収納が必要なため、造り付けの家具を設置しました。

既存ホールには大きな天窓がありました。今回の工事ではリフトと設備設置の兼ね合いでそのまま残すことが難しかったので、家具の上や廊下天井に一部天窓からの光が入るような作りとして、元々あった天窓を活かしています。
ホールにあった大きな外部窓は改修し、脱衣室・浴室にそれぞれ腰窓を設けるつくりにしています。

脱衣室(窓側)

脱衣室(入口側)

天窓を一部残し、光が入るようにしている

廊下から脱衣室を見る

建築主
社会福祉法人よさのうみ福祉会
所在地
京都府与謝郡与謝野町
用途
障害者支援施設(入所)
構造
鉄筋コンクリート造
階数
地上1階
延床面積
改修面積 約35㎡
竣工年月
2024年10月
ユニットバス
積水ホームテクノ株式会社
機械浴槽
ユニバス(酒井医療株式会社)
天井走行リフト
株式会社ウェルネット研究所
担当者
丸川景子 , 河井美希